ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 他自殺志願 ( No.4 )
日時: 2010/05/30 00:37
名前: 笹飴 (ID: LYNWvWol)

2話《二歩目の歩み》


僕の両親はなぜだかいない。
顔すら、声すらなにも見聞きしたことがない。
で、その家族の唯一の一人が僕の弟。
よくわかんないけどすごい病弱でいつも寝てるんだよね。
で、自分が布団で寝るからお前はベッドで寝ろとか言ったら、自分の身を心配してくれたみたいで自分もベッドを使わせてもらってる。

正直本音でこの歳で弟と一緒にベッドに入るとかいうブラコンじみた行為はしたくなかったけどさ、病弱な弟を否定したくなかったししょうがないかな・・・。
無駄にダブルだし親はなにを期待してこんなもの残していったんだろう、僕にそんなことまだまだだと思うんだけどな、うん。

毎朝弟の顔を拝むことはできない。
壁に向かってすうすう寝ている彼を起こすような鬼畜な行為はしたくないし、ただでさえ病気なのにさらに悪化させることは兄としてあるべきことだ。頬を撫でるくらいで我慢してやろう。


朝以外はどうしても眠りに落ちてしまう自分にとって弟の顔は見たくても見れない。
喋ったことすらベッド以来まったくないのに、なんだか見えないところですごく優しくしてくれて、紙に書いておくと相談だってしてくれる。顔が見えなくとも兄弟は兄弟。
両親がいないこの家では協力して、支えあって生きていかないと・・・。


で、その弟に自分が成り代わった夢をよく見る・・・という。
兄の僕が弟の自分の首を絞める・・・あれ、意味わからんどっちにしろ自分で弟も自分・・・?
でもそれが申し訳なくて、可愛そうで、起きると枕は涙でびしょびしょになって・・・いた。
今はなんだか慣れてしまって起き際に『ごめんね』と声を掛けるだけになった。僕が・・・弟の首なんか絞めるわけが・・・それに自分が首を吊って・・・・。
思い出すだけでも吐き気が上ってくる。
初めてその夢を見たときは吐いて吐いて泣いて泣いてぐちゃぐちゃだった。
血も吐いたしもうやだ・・・。


「何を思い悩んでんの?」
話しかけてきたのは竣。
いいところで助け船を出してくれた。
遠くで裕理と陽も心配そうに見ていたことに今気がつく。
「美人さん二人組も心配してるけどさ、なんかあったら相談のるけど」「ありがと、大丈夫。僕は元気」
にっこりと笑って二人組と竣を見回すと安心したように二人組は話に戻り、竣はいつもの頬杖をつきはじめる。至って普通な仲間を見て安心した僕は薬一粒を誰も見ていないところで口にほおり投げる。
苦い、じんわりとした味が広がったが嘔吐に慣れてしまった自分にとってはまだまだ余裕なものだった。


教師が・・・ねむ・・・い・・。






よかった、薬飲んでおいてよかった。
飲まなかったらまた地獄行きだ。よかったよかった。
おかげで保健室に運ばれるだけになってた。
重い体を起こしてベッドの周囲を見回してみると保健医の姿は見られず、他の生徒もいる気配がしなく自分の呼吸だけが狭い空間に響いていた。
ベッド脇の小さな机には今日の給食と思われるものが無造作に置かれ、元気のなくなった食事たちが床を無言で見つめている。
大抵、寝起きに何かを口に入れると吐く。
酸っぱい何かがこみ上げてきてさきほどまで食べていたものが・・・
申し訳ないけどシチューさんたちは残飯に回ってもらうことにしよう。もともと低血圧で寝起きだと頭がぐわんぐわんする。
で、今気づいたんだけどベッド赤くね?僕女の子の恒例行事なんてこないけど・・・うわ・・・。
手にねっとりとした感触が絡み着いているとおもったらよくわからないが寝ているうちに手を何かでざしゅざしゅ・・。
なに、誰かが僕のこと殺そうとしてんのかな、手首に深い傷が・・・。大動脈いったら自分死にますけど、痛いんですけど・・。
そして僕は無駄に痛さに鈍い。
今回の傷でやっと痛いくらいだ。血がだくだく溢れ出す手首を遠目で見つめながら目測の定規で傷の深さを測ってみる。
うーん・・・一センチくらい・・・?
それに加えて傷をつけた人物はけっこうな人間マニアのようだ。
死なないようにときれいに血管を避けて切り刻んでいる。
・・・。
前回、といっても昨日だけどそのときは首周りに円上のような形で赤いネックレスをひかれる。
その前は瞼にお絵かきされた。最初は目が開かなくてびっくりしたけど触ってみたら切られてただけだから安心した。
でもなぜだか保健医がつきっきりで見守ってくれているときには無事で傷一つできない。
もしも犯人が保健医だとしたら、毎日のように傷が埋め込まれていくだろうにそんなことはなさそうだ。
その憶測から僕が下した判決。犯人は“生徒”ということ。
でもそんなに恨まれる行為なんかしてんのかな?寝すぎ?いやいや、ちゃんと事情って説明してあるし・・・ううん、いやいやもしかして猟奇なまでに僕を愛してくれている人が・・・。


それよりこの状態でほおっておくのは保健医に悪いし居心地も悪いし洗っとこう、まぁこれも最近の微かな行事になっている。
赤黒く乾いたそれを見るのはいくら自分でも気が引けるが、他人が見たら自分の滴り続ける血液を見る方がいやだろうに、ごめんなさい保健の先生。