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Re: 嘘の蒼 ( No.13 )
日時: 2010/06/25 20:44
名前: 狼華 (ID: 7uqXWVar)

第四話 偽善否心〈ぎぜんひしん〉

 ・・・・嘘だ。
 嘘だ。嘘だ。嘘だ嘘だ嘘だっ!!
 信じるものか。
 信じてたまるか。
「・・・・ぅ・・・げほっ・・・うぇっ・・」
「新君っ・・・・」
 押さえきれなかった吐気がそのまま吐き出される。
 目の前で見ている現実をどうも自分が受け止められない。
 今朝はあんなに笑顔を見せていたじゃないか。
 ふと。脳裏にとある男の顔が浮かぶ。
 顔だけでは無い。
 声もだ。
 
「見てしまったのかね?」
 
 
 声が脳内で再生されるのと同時に耳にまったく同じ声が入ってくる。
 まさか・・・・・まさか。
 人を疑うことなんてしたくない。
 でも、自分が今おかしな状況にあるせいか自然にその言葉が吐き出される。

「お前が・・・っ・・・・お前が悠一を殺したのかっ!!」
 
 凜華と耀介が驚いた顔をしてこちらを向く。
 驚いたと言うよりは「どうして?」と言う顔が近い。
「おや。死んだとは限らんよ。」
「お前の言うことなんて信じられるか!」
 激しい言葉のぶつけ合い。
 といっても俺が一方的に責め立てているだけなのだが。
 

「おい、谷津。貴様、悠一君達に何をした?」

 
 不意にこの場には合わないような優しげな声が聞こえる。
 宮守啓〈みやもり けい〉だ。
 俺たちのいる第1棟の責任者だ。
 なぜか俺たちに結構いい配給をくれたりする。
 そんなことはどうでもいい。
 何故この男がここにいる?
「さて、彼らを返して貰おう」
 もうあちらはあちらで話が進んでいる。
「嫌だと言ったらどうする」
「力でねじ伏せるしかないだろう。君はバカじゃないと信じているから頼んでいるんだ」
 それなりに恐ろしい話だ。
 凜華達は何が何だかさっぱり分かっていない。
「そもそも君がこの子達を無理矢理ここにいれたのだろうに」

  ・・・・・え?
  今・・・・何て?

  話がさっぱり分からない。

  後ろの方でドサッという鈍い音が聞こえる。
  速いテンポで呼吸をする声が聞こえる。

「君は嘘をついている。」

  タッと短いステップの音。

「9183・・・・つまり悠一君の家族は君たちが殺したんだろう?」

  ガチャンと何が鉄を持ち上げる音。

「それに彼ら以外の人間はすべて機械なんだろう?」

  ヒュンと空を切る音。

「彼らに嘘を教え込んでいるのだろう?」

  ゴッという鈍い音。
  ドシャッと何かの倒れる音。

「嘘を・・・・・つくなっ」
「俺の・・・・俺の家族がなんだって?」

  普段とは違うどこまでもどこまでも先が見えないほどに冷たく鋭い声。
  ピチャピチャと自身の血と谷津の血の垂れる音。

「宮守先生・・・・。嘘ですよね・・・?」

 先ほどまでの声とは打って変わり震える小さな小さな声。
 
「・・・・・・・」
  
 宮守が黙り込む。
 どこかで聞いたことがある。人が黙り込むときは


    嘘をついているときだ。


「・・・・・・・・・分かりました。」

 握っていた鉄パイプがカランと彼の手から滑り落ちる。
 微笑みながら泣いていた。

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 すべての常識が崩れ去ったとき人は何を見るんだろう。
 少なくとも俺の目の前に泣き崩れる親友は深い絶望を見ていることだろう。
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