ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: ブラック・ラビット ( No.2 )
日時: 2010/06/13 14:51
名前: ヨシュアさん ◆FdjQaNCWZs (ID: bQobMYPz)

第一話 —刃音 黒兎—

瞼が鉛のように重い。持ち上げようとするが、視界に飛び込む強烈な光に再び下ろしてしまう。

ゆっくりと光に慣らせて持ち上げた瞼。視界が急速に広がっていく——。

まず、目の前に見えたのは痛いほどの光を放つ偽の太陽だった。ただ明るいだけの嘘の日光を防ぐため付けた質素で白いカーテンは蝶の羽のように風で揺らされている。どうも、窓を開けてたために、カーテンは存在意義を無くしていたらしい。

カーテンが再び、緩やかな風に撫でられる。
それから一息遅れて、同じ風が俺の額を人の指が撫でるように吹き抜ける。

心地よいとは思う……。だが、好きにはなれない。
あいつが居なくなった次の日も、こんな朝だったから。

俺はおもむろに上半身だけを起こす。
「朝、か……」

左手で頭を掻き毟って、部屋を見渡す。
服や、ゴミが定期的に配置……いや、散乱した部屋は相変わらず汚かった。壁や天井は軽くすす汚れて、模様のようにも見える。あの右隅の少し濃いすす汚れなんて、黒猫にも見えてしまう。唯一ホコリが被っていないのは毎日使うPCのみ。画面では何の文字かわからない本をぺらぺらとめくるスクリーンセーバーが展開している。どうも、電源を切り忘れていたらしい。

今度は視線を部屋から窓の方にやる。
相変わらず、目潰しにも思える暁光が俺の部屋に降り注いでいる。開いてる窓から、顔を出して下を覗く。
下も相変わらず、蚤か米粒のような人がうじゃうじゃ歩いている。「やっぱり、変わらないな」と俺は呟くとすぐに顔を引っ込めた。高所恐怖症ではないが、さすがに落ちたときのことを考えると少し怖い。

枕元の目覚まし時計は目覚ましのベルが鳴る時間を当に過ぎているのに、冬眠した熊のように沈黙している。

本当に冬眠してるんじゃないか……?
いや、現実逃避はやめよう。ただ壊れてるだけだ。

その目覚まし機能が壊れた時計は長針は十二を、短針は八を指していた。しかもご丁寧に秒針まで、正しく、刻々と時間を刻んでいた。

何故、壊れたのがベルだけなのかはあまり、考えないようにする。

予定時間を大幅にオーバー……。今日の夜に取り戻すしかないか……。さて、それよりもどうするか? もう眠れそうにもない。だからといって何かする気も起こらない。

俺は力を抜いて、倒れるように体をベッドに沈めた。
眼を瞑る。視界は閉じていき、光に変わって、視界は闇に支配されていく。一面闇——。

この闇が晴れれば、どれだけ気持ちが和らぐのだろう。
太陽のような無理やり影をかき消す辛い光じゃ、だめだ。真夜中に浮かぶ白月の白い月光のような和らぐ、優しい光。
そうじゃないと闇は晴れても、俺の気分は晴れないだろう。

何分が経っただろう……。

俺は時計を確認しようと、眼を開けた。その時——。

ドアから、軽く野球ボールをぶつけたような音が何回かして、一人の女のような声が聞こえる。

「やーいーばーねーくぅーーーん!居ますかぁぁーーーーー!!」

普通に喋れば、か細く幼げな小鳥のような女の子の声なのかもしれない……が、この大声は小鳥というより、怪鳥だ。
俺は無視を決め込んだ。

「やーいーばーねーくぅーーーーーーーーん!!」

が、どうも立ち去る気配は無い……。
仕方なく俺はこの楽園から立ち上がり、小さく軋むドアを開けた。