ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: Ravinalog γブラック・ラビットγ ( No.6 )
- 日時: 2010/06/28 06:23
- 名前: ヨシュアさん ◆FdjQaNCWZs (ID: bQobMYPz)
第三話 —日向 日和— 〜後編〜
そうか……そういうことか……。
「んなことより! 何で、俺がクロウサギだってことを知ってる? 誰から聞いた?」
リィハは鼻で「ふふっ」と笑ったかと思うと、口を開いた。
「まだ登校中よ。私は学校に来たら、教えてあげるって言ったつもりだったんだけど?」
俺は少しきつめに言ったつもりだったが、どうもこいつには意味が無いらしい。
「登校すればって言ってなかったか?」
リィハは相変わらず、口元の端を下げずに、不思議な微笑みを保っていた。
「そうだったかしら?」
はぐらかしやがる……。
俺はあからさまに不機嫌になる。両隣にわかるように。
「答える気が無いなら、もういい」
俺はクロウサギの話題から、逸らすために少し大きな声で言った。周りに聞こえたかもしれない。
「んなことよりもだ……何で、俺のところだけに迎えに来たんだ? 北ベースシティならともかく、此処——西ベースシティなんて、そこら辺にごろごろと不登校な奴がいるだろ。もしかして他にもお前ら見たいのが居るのか?」
俺は真っ直ぐにリィハの方を見て言った。リィハはその蒼空の瞳に俺の顔を映し「いないわ」と、答えた。
「だったらどうして、他の奴らを迎えに行かないんだ?」
前に向き直ったリィハはまるでこの質問を待ってたかのように
直ぐに答える。
「来ないんじゃなくて……来れない理由があるとしたら?」
「どういうことだ?」
リィハは一つ小さく頷く。
「知ってる? 最近、病院の患者が多くなってきてるの」
俺は首を傾げた。
「それがどうした。それが関係あるって言うのか?」
また、リィハは頷いた。少し深く。
「ええ、あなたを除いての不登校者全員がその入院患者……」
「なっ……! 嘘だろ!?」
リィハは首を横に振った。本物の朝日のような白い髪をなびかせて。
「嘘じゃないわ。全部が全部本当よ」
「んなことがあるわけ——!」
俺が言い掛けた途端、リィハは俺の上唇に左手の人差し指を置いて、止めた。
「あった……。これが事実。事実は誰にも曲げられない。時間しか……」
リィハは詩のように呟いた。小鳥がさえずる様に。
「そうかよ。でも……何で……」
「その人たちは皆『Ravinalog』をやっていた」
俺はただ前を見つめ、足を進め、言葉を口から出した。
「それが関係あるって言うのか?」
リィハはふと目を閉じると、微笑みとは別の笑みを浮かべて言った。
「さぁ? でも、あなたは……心当たりがあるんじゃない?」
どういうことだ……? こいつは、リィハはまさか、あいつのことも知ってるっていうのかよ……。
「お前、俺のことをどこまで知ってんだ?」
俺はリィハを睨むが、リィハは気にも留めずに言う。
「全て……何て言ったら大げさかもしれないけど、5割以上のことは知ってるつもりよ」
リィハは俺の顔を見て、また不思議な微笑みを浮かべる。
——見れば見るほど、あいつに似てる気がしてくる。——
俺は思わず目をそっぽに向けた。その方向には空よりも濃い青いものがあった。もっと正確に言うと青く揺れる長いものがあった。そんでもって、さっきから存在感が妙に薄くなっていた日向 日和が満面の笑みを浮かべ、俺を見つめていた。
青く長いものはこいつのポニーテールだったようだ。
「なっ、何だよ……」
「ほら、あっち見て!」
日和が笑顔で指差した方向。俺達が進んでいる向こうには一つの大きな建物がそびえ立っていた。
学校か——。別に何の思い出も、思い入れも無いただの安物の塗装がされた建物——。俺には必要の無いものだ。
俺はそうな風に考えていると、急に日和に左手を引かれ、こけそうになり、踏み出した右足に力を入れてしまう。左手を握っている手はぎゅっと掴み、離そうとせずどんどん引っ張っていく。俺は体制を整えることも出来ず、ただ走らされるように引っ張られていく。
「学校、楽しいよ! すっごく楽しいんだよ!」
日和は俺の方に向くとそう言った。日和はリィハのような微笑とは違って、自分の全部をさらけ出したような満面の笑みを浮かべていた。朝日でも夕陽でもない。いつも、高くまで上った太陽が全部を照らしてくれるような光——。そんな笑顔だった。
到底俺には出来なさそうなことだった……。
「ちょっと待て、止まれ!」
俺が停止を促すと、日和は止まり、俺を見た。
「いきなり走り出すな……」
「御免……だってすぐそこだったんだもん……学校」
肩をしゅんとさせた日和は反省してる様子だった。
俺は別にそこまで怒ったつもりは無かったんだが……にしても、こいつは本当に学校が好きなんだな……。
俺はゆっくりと俺たちに近づいてくるリィハを一瞥し、言った。
「楽しいか、楽しくないかは俺が決める。お前が決めることじゃない」
それでも日和は無邪気な笑顔で言う。
「絶対に楽しいって感じるよ! 絶対に!」
「はぁ……」
俺は一つ大きな溜め息を付き、もう一度学校と呼ばれる建物を見る。
あいつが居なくても、楽しいと俺は感じれるだろうか? 楽しいと感じてしまえば俺は明日からどうすればいいのだろうか? 楽しいと感じたくない……その言葉が心の中に過ぎる。
俺はやっと追いついてきたリィハを一度見ると、前に向きなおしもう一度歩き出した。さっきと同じように挟まれて歩く俺は両隣を見る。
右には太陽のような満面の笑みを浮かべて、歩く青髪の少女——。
左には月光のような不思議な微笑みを浮かべて、歩く白髪の少女——。
俺はただ一人のことを考えた……。決して忘れないように……。
月姫——。