ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 人、人、人。 ( No.5 )
日時: 2010/06/06 08:52
名前: 煌謎 ◆vBOFA0jTOg (ID: 3r6DhwLS)

▼Scene01 「雨の下で」

誰もが眠り、静かに為った夜の街に
僕の仕事が始まる。

僕の仕事は殺し屋、誰にも見付からないでターゲットを殺る。
勿論僕の事を見た人、所謂目撃者は口止めとして殺す。
其れが殺し屋、僕等の掟だった。


「今日の仕事はヤクザの一人を殺せか……」

ビルの屋上に、漆黒に無数の蝶が刺繍してある洋服、そして黒錬を持つ僕が一枚の紙を見ながら呟く。

「簡単な仕事だからさっさと終わらせろよ」

僕の後ろにいた湟謎が言った。

「判ってるよ湟謎、コイツなら素手でだって殺れる」

やれやれと言った口振りで僕は言捨てる。
湟謎は僕より少し経験が多く、殺し屋では上の人。
勿論僕も腕は立つ方だ。

「おっ来たぞ」

其れを聞き下を除くと、ターゲットのヤクザが一人でいるのを確認出来た。
僕は「じゃ、行ってくる」と言ってから、ターゲットの元に飛び降りた。



───── グ  シ  ャ  ァ  ァ



僕はターゲットの腹に腕を突き刺し、抉るように引き抜いた。
そして軽く跳躍すると、今度は頭部を蹴り潰していく。
断末魔と血飛沫が、俺を中心に其の色を染めていた。

僕の足下には大量の血溜まりができ、其の両腕は真っ赤に染まってポタポタと鮮血が滴り落ちている。
既に『死体』に為ったターゲットを見詰めていると、重苦しい黒雲から、大量の雫が辺りを包み込んだ。

其の激しさに僕に纏わりついていた血が、綺麗に流されていく。

「……雅焔」

「ねぇ湟謎、雨はいい。
僕に、纏わりついた汚れた血を洗い流してくれる」

僕は号泣する空に向かって、真っ直ぐに右手を伸ばした。
透明な雨が僕に付いた全ての『赤』を落としていく──


「こうして『赤』を落とすと、何もなかった様に見えるでしょ」

僕は綺麗な顔で微笑む。
狂気と恐怖を纏いながら。

「早く帰ろう。皆が待ってる」


雨の中そう微笑む、雅焔は酷く儚げで怖い位美しかった。

若くして殺し屋に為った女───

其の美しい外見とは裏腹に、氷の微笑を合わせ持つ。
だが、何故か引き寄せられる存在。


「あぁ、そうだな」

湟謎は小さく笑う。