ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 人、人、人。 オリキャラ後1人募集中 ( No.25 )
日時: 2010/06/08 22:19
名前: 煌謎 ◆vBOFA0jTOg (ID: 3r6DhwLS)

▼番外編 「空白の左目」

あれは、未だ雅焔が『殺し屋』の一員に為ったばかりの事だった。


「マフィアは潰しなんて初めて」


雅焔は今回の仕事内容を訊いただけでも、嬉しがってはしゃいでいた。
仕事熱心なのは嬉しいが、正直雅焔には今回の仕事は留守番させておきたかった。
今回の仕事は、怪我だけでは済まない可能性が非常に高い為である。
怪我をしてからでは遅い。
そう、言いたいが、彼女が素直に訊き入れてくれる筈が無い。
だから、俺は彼女を守り、こう言うしか他無かった。



「無茶はするな」


++++

─── ド  カ  ッ     ド  ォ  ー  ン  ッ


俺は、反射的に思い切り標的の身体に蹴りをいれる。
爆音と共に、標的の身体が壁に減り込んでめきめきと音をたてていた。

「君は、どんな死に方が良いかい?」

俺は、倒れ込む標的の側に瞬時に移動して、頭を掴み上げる。
身体中の擦り傷から血が流れ落ち、口からは蹴りの衝撃で血と吐物を吐き出していた。

こいつを相手しているより、一刻も早く雅焔を見に行きたかった。
怪我はしていないだろうか。

早く終わらそうと思った俺は、標的の頭を片手で持ち上げて今度は、思いっきり撃ち投げる。


─── ド  ォ  ォ  ォ  ォ  ン  ッ


辺りを、衝撃による砂塵が白く舞い降る。
再び彼は壁に激しく撃ちつけられて、ゴホッと口から大量の血を吐き出した。
壁にめり込んだ身体が重みで崩れ落ち、ドサッと音を立てて床に倒れ込む。
死んだ。
そう思ったが、ピクリと指先が動いて、俺は少し目を見開いた。

「まだ生きていたのか。 苦しいだろう。早く逝きたいだろう。 直ぐ、楽にしてあげよう」

止めを刺そうと、俺が足を振り上げた時だった。


───ド  ォ  ォ  ォ  ン


雅焔が闘っている筈の部屋から、大きな爆音が聞こえた。
其の時、俺に嫌な予感がして、冷や汗が流れ出た。
雅焔が、そう簡単に殺られる程弱くない事は判っていたが、此の胸のざわつきは一向に納まる気配はない。
俺は目の前の標的の事を忘れて、一目散に雅焔が居る筈の部屋に駆け込んだ。


嫌   な   予   感   は   的   中   し   た

雅焔は崩壊された壁の瓦礫に埋まるような形で倒れていたのだ。
出血は無いようだが、苦しそうに倒れている。

其の時の俺は理性を失い、只闇雲に標的を殺し続けた。
雅焔を傷つけた罰として。


++++

そして、長い夜が明けた。
実際の暗殺は、一刻位の時間で終えられていた。
しかし、俺にとっては長い一夜だった。

今回潰したマフィアの全体の数は、100名を超えていると言われている。
数に勝る相手の陣地に突入した事を思えば、俺達は目覚ましい成果を収めている。

しかし其の一方で俺達の被害も、浅いものでは済まなかった。

雅焔が左目を負傷した。何も移さなくなったのだ。
医者は打ち所が悪かったんだろうなんて、同情した声で言ったが、雅焔は俺の手を握って笑った。

「大丈夫」

と言って、少し震えながら笑った。
抱き締めてやりたかったが、強い彼女は泣き顔を見られるのは嫌だろうから、やめた。


「痛むか、左目」

「ううん、全然平気。心配してくれて有難う。冦鎖」

躊躇も無く伸ばされた其の小さな手を、俺は強く握った。