ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

act.1 ( No.1 )
日時: 2010/06/12 15:34
名前: 時代 (ID: GUpLP2U1)

(……何だよ、これ)
自分の足元にある物体を見下ろす。紅い、朱い、緋い、アカイ。……血?これは死体なのか?
だったら、僕は、これを、この人だったものを、殺した事になるじゃないか

act.1

「……落ち着け……」
そんな事を呟いてみても落ち着ける筈が無く、いくらまばたきしても目をこすっても目の前にあるそれは消えなくて。自分の手に血のついたナイフがある事が確認されただけだった。
……僕は、本当に。
この人を殺したのか。
それを事実として再確認した途端に、言われようのない恐怖が襲ってくる。なんで、何で、どうして。何で。
意味も答えも分からない問いを繰り返しても恐怖は消えない。むしろ増幅していくばかりのような気がして。
僕は頭を抱えて、その場に座り込んだ。
それでもその死体は視界に容赦無く入り込んで来て、幾ら追い出そうとしても出てくれないものだから、僕は諦めて何時の間にか流れていた涙をそのままにして立ち上がる。そこで気が付いた。

(ここは、どこだ?)

そう言えば、気が動転して自分がどこにいるのか確認する余裕もなかった。
僕が今いる所は、ただ白いばかりの小さな部屋だった。……いや、本当は白だけなので正確な広さは分からなかったのだが。

少し見回してみれば、この部屋には酷く不釣り合いな鉄で出来ているらしいどこかの牢屋にあるような錆びた扉。こんな場所、僕は知らない。知っていても来た覚えなんてない。何があった?思い出せ、思い出せ………
いつも通りに学校へ行って、いつも通りに友達と悪ふざけをして、いつも通りに家に帰って、それで………。
……僕は、母さんに殺されそうになったんだ。家と言う名の、狂気と化した空間で。だから僕は、偶々テーブルにあった父さんのサバイバルナイフで……それで僕は、母さんを殺したのか?良く見れば、その死体は女性であるようにも見える。そして、彼女が身に付けているのは………見間違いでなければ(その時の僕は、それを切実に願ったのだが)、それは母さんがいつも着ていた青いエプロンで、母さんが僕を殺そうとした時に着ていたものだった。……嗚呼、本当に僕は、母さんを殺してしまったのか。
何をするでもなくその場で血まみれでぐちゃぐちゃでもう何であったのかすらも分からない酷い有り様の母さんの死体を見ていたら、扉があるはずの方向から誰かの声が聞こえた。

「……随分、派手にやったもんだな」