ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

act.3 ( No.8 )
日時: 2010/06/20 22:17
名前: 時代 (ID: 7POxSCHv)

もしかしたらその時、僕はそうなる事が分かっていたのかもしれない。
だから、そこに足を進めたのかもしれない。根拠なんてどこにも無いけれど、何故かそう感じた。

act.3

どうやら銃声は空耳だったらしく、無機質な通路をずっと歩いていっても何も無かった。……千は、途中で何かを見つけたような素振りを見せたけれど、それさえも僕の見間違いであるかもしれないのだから錯乱している時というのは面倒くさい。
錯乱している自分を余所に、まるで他人の事のように冷静に分析している自分がいて、その事に軽く一瞬だけ自嘲の笑みを浮かべてすぐに消した。……何を考えているんだ。僕は。
そんな事を思った矢先に、何かが爆発したような音が聞こえた。……今度は、嫌になる位にはっきりと。しかも音の大きさからして近い所で。
思わず目を見開いた僕は、次の瞬間に音が聞こえた方向に駆け出した。……この場合で幸いと言うべきなのかは分からないが、そこは最初で3つに分かれている以外は一本道だった………千もその音は聞こえたようだが、まさか僕がそちらへ行くとは思わなかったらしい。焦ったように「……っおい、待てよっ!」と言ったらしいが、それは僕の耳には入らなかった。
しばらく音のした方向へ走って行くと、鉄の扉がそこにはあった。……僕がいた部屋の扉と、同じ形の。
そこで立ち止まってドアノブに手を掛けようとした時、自分の手が震えている事に気付いたけれど、そんな事は気にしないままにその扉を開けた。そこに、あった、のは。

「……え」

血塗れで、見るも無残な人の死体。
どうやら男性であるらしい事は何とか確認できたが、服は殆どが破け、顔は原型を無くし、足や腕も右足を除いて全て無くなっていた。
……成る程。聴こえた爆発音は、この人が死ぬ音だったのか。何故か自分でも恐ろしくなる程に冷静に、僕はそんな事を考えていた。……何でかって、答えは簡単。僕が、これと同じ位に酷い殺し方をしたから。
そんな事を死体を前に考えられるのだから、僕は少しずつ狂って来ているのかも知れない。
暫くの間そこで棒のように突っ立っていると、どうやら走って追い掛けて来たらしい千が僕の横に来て肩で息をしながら言った。
「お前、急にどうし、た……」
千は言っている途中で死体に気付いたらしく、それを見たまま目を見開いて無言になった。
……僕は、どうやらその時、いわれようのない恐怖を感じた。……例えるならそれは、どこか悲哀にも似たもの。
「……あ」
やめろ、来るな、止めろ!ああでも、……何、が?
「う、あ、あ、あ、あああああああ!!」
それが分からないままに僕は頭を抱えて泣き叫び、何時の間にか自分でも訳が分からなくなっていた。それ程、僕には衝撃が大きかったらしい。
どうやら千は、最初から僕がおかしくなった事に気付いていたらしい。僕が泣き始めた時も、何も言わずに隣で僕を見ていた。
暫く泣いて泣いて泣いて泣き叫んで、漸く少しだけ落ち着いた時、……世界が、闇に
包まれた。
「……な、んで」
千のそんな声が、聞こえた気がした。


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今感じたけど主人公泣きすぎ←