ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 人物語 -1905日間の放課後- ( No.4 )
- 日時: 2010/06/14 15:38
- 名前: 音暮 ◆KGyV2CsFBI (ID: olAAS3wU)
第三晩 「笑顔」
あの牢獄から少し離れた場所に今俺はいた。
久しぶりに吸う外の空気。
風を感じるのもかなり久しぶりだった。
髪が風に流れて頬に触れる。
「……」
大きく息を吸い込みそして目を閉じた。
外だ。
三年ぶりの、外。
「なぁ、雨月。お前は戦争機械か?」
いきなりそんな事を尋ねられた。
戦争機械、言葉自体は知っているが……。
「そんな訳ねぇだろ。俺は普通の人間だよ」
そう答えれば、男、確か獅堂だったか、彼は少し驚いたように目を見開いた。
「え、じゃあ、お前、あの場所が何の場所だか知ってる?」
「知らねぇけど」
そう返せば、獅堂は困ったように頭を掻いた。
「あそこな、戦争機械の牢獄なんだよ。てっきり俺はお前もそうなんだと思ってた」
戦争機械の牢獄。
そんな所に何故俺が投獄されてたんだ?
俺はただの人間で、
連れ去られたときも、何処にでもいる普通の中学生だった。
そんな俺が何故?
「少し謎も残るけど、まぁいいか。雨月、お前は何処か帰る場所はあるか?」
真剣な顔で尋ねる獅堂に俺は息を呑んだ。
帰る場所。
そんなもの、俺にはない。
俺には家族なんて残っていない。
全員、殺されてしまったから。
敵であった米兵じゃなく、味方のはずの日本兵に。
あの惨劇を思い出し、俺は強く手を握り締めた。
「……じゃぁ、俺と一緒に来るか?」
俺の様子を見ていた獅堂がそう呟くように言った。
「猫でも拾ったと思えばいいか。お前さえ良ければ、俺はお前を歓迎する」
そう言って俺の目の前に手を差し出した。
あの、笑顔で。
「アンタは、迷惑じゃ……ないのか?」
俺は少し俯きながら訊く。
「俺ん家にはお前みたいな拾いモンがいっぱいいるからな。全然迷惑じゃねぇよ」
そう言って手を前に出す。
俺は、その手を掴むのが、怖かった。
また、失ってしまうんじゃないか。
そんな事を考えていた。
血塗れで倒れる家族の姿が脳裏に蘇る。
失うくらいなら、最初から何もないほうがいい。
「俺は……」
俺が口を開くと同時に獅堂は無理やり俺の手を自分の手を重ねた。
「お前、またマイナスな事考えてんだろ? 今はいいよ、考えなくても。だから、来いよ」
そう言ってあの、無邪気な笑顔を見せた。
「っ……」
コイツの笑顔は俺の涙腺を緩める。
泣くつもりなんてないのに、自然と涙が溢れた。
スゥーと一筋涙が頬を伝う。
「くそー……泣くつもりなんてねぇのに……。なんだよお前、人の涙腺緩めるなよ」
そう言えば、獅堂はまた笑って俺の頭を撫でた。
「よし、お前は今日から俺の仲間だ。ついて来い、他の拾い猫も紹介しなきゃな」
俺は前を歩く獅堂の背中を追いかけた。
まだ、完璧に信用したわけじゃない。
けど、コイツについて行けば、
いろいろと分からない事が分かるんじゃないか、そんな期待もあった。
何故、俺があの場所へ投獄されたのか。
日本兵に何故家族が殺されたのか。
知りたい。
知るためなら、俺は藁でも何でも縋ってやる。
「ありがとう……獅堂」
その俺の呟きに、
獅堂は嬉しそうに微笑んだ。