ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 人物語 -1905日間の放課後- ( No.8 )
- 日時: 2010/06/19 19:29
- 名前: 音暮 ◆KGyV2CsFBI (ID: olAAS3wU)
第四晩 「出会い」
獅堂によって連れて来られたのは、高級そうなビル。
よく都会にある高層ビルを思い浮かべてくれればいいだろう。
そのビルの最上階の一室、扉に掛けられたプレートには“万屋本部”と丁寧な字で書かれていた。
「万屋、本部?」
俺はそのプレートを見つめ、呟いた。
「万屋って他にはいろんな所に支部があるんだよ。結構大きな会社なんだぜ」
そう言って扉を開ける。
俺が入っていいのか戸惑っていると、来い来いと手招きをされた。
「あーおかえり、社長……って。その子誰ッスか?」
俺が部屋に入った瞬間、青い瞳に見つめられた。
年齢は、十代後半と言ったところだろうか。
「え、あ、俺は……「コイツ俺の家族」
答えに戸惑う俺の代わりに獅堂がそう答えた。
「はぁ!? まさか、隠し子ぉ!?」
その青年はケダモノー、と獅堂を指差し叫んでいた。
元気な声が室内に響く。
「バッカ!! 違ぇよ!! 拾ったの、今日の任務先で」
それに反抗するかのように獅堂が声を上げた。
「……それはそうと、その子……訳有?」
青年はいきなり落ち着いた様子で俺の腕を指した。
あらためて考えれば、服は獅堂がパーカーを貸してくれたため異常は無いが、手と足首には鎖が残っていた。
「あ、忘れてた」
『忘れんなよっ!!』
俺と青年の声が重なった。
後でなんとか取ってやるよ、獅堂は手をひらひらさせながらそう言った。
「……まぁ、俺も訳有青年だし? 今は詳しい事、聞かないよ」
青年は歯を見せて笑った。
また獅堂と同じ、屈託の無い笑顔。
「……ありがとう」
俺のその返答にまた嬉しそうに微笑んだ。
ホント、こんな笑顔に囲まれてたら俺、涙腺緩みっぱなしだよ。
そんな事を考えながら、少し笑みを零した。
「で、お前。名前教えてよ」
「雨月、獅堂……雨月だ」
そう言うと青年は、やっぱり隠し子じゃねぇかっ、と叫びを上げていた。
それに違う違うと否定し説明する獅堂。
そういえば俺、獅堂の下の名前知らない気がする。
「なぁ、獅堂の下の名前って何?」
喧嘩している二人の間に身を入れて、そう問う。
「あ、言ってなかったっけ? 名残(ナゴリ)だよ。あの、名残雪の名残」
人差し指を立てながら言った。
「あっ!! 俺も自己紹介。俺は望月 甘露(モチヅキ カンロ)っつーんだ。よろしく、雨月」
「よろしく、甘露」
そう言って手を差し出そうとした甘露はその手をヒュッと引っ込めた。
俺が不思議そうに顔を見れば、困ったように笑った。
「んー……。俺とは握手しない方がいいよ。伝わっちゃうからさ、いろいろ」
疑問が少し残ったが、あえて深追いはしなかった。
あまりに困った顔で笑うから。
そんな微笑ましい一時を過ごしている時だった。
窓ガラスが飛び散り、カーテンが風に揺れる。
「何事だっ!!」
甘露は自分の腰元のホルダーから小型ナイフを取り出し構えた。
名残も緊張したような表情で窓の外を見つめる。
「こんにちはー。機械回収係でぇす」
人を小馬鹿にしたような声が室内に木霊する。
そして緊張した空間に現れたのは、黒いスーツを着た、数人の男達だった。