ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 死体愛好者と正しい死に方 ( No.26 )
- 日時: 2010/07/11 14:54
- 名前: 月兎 (ID: iEydDqYB)
第八話「忘れ物」
—忘れ物。忘れ物。僕が忘れたのは過去だった。
それと未来も、思い出してしまったら前には進めないかもしれない。
忘れちゃいけないことも全部忘れてた—
「みーくん!!」
彼女はそんな僕にも悲鳴もあげずに掲げていた新聞を地に落とし近づいてくる。
おぞましい、憎たらしい、寒気がする、吐き気がする…
「来るな、来るな、もうしないからっ御免なさい御免なさい!!」
口から血を流しながら謝って、あの時と同じだった。
『来ないで…ごめんね、御免なさい!もうしません、もう吐かないから!!』
「みーくんっっっ!!」
最初僕の名前を呼んだときよりも大きな、響く声で彼女は叫ぶ。
「あぁ、御免なさい…あ、夢羽ちゃ、ん」
でてきた少女の名前はあのときの…「彼女」
思い出してくる、いらない情報までもが頭の中に入ってくる。
「大丈夫だから、私は…違うから、私は現乃 帝。大丈夫、大丈夫」
小さい子をなだめるように彼女は僕を優しく抱きしめて、何度も大丈夫と呟いた。
思い出したのは本当に思い出そうとしていたこととは違う、それよりももっと昔で自分の中で思い出したくないただ一つのことだった。
罪を犯した、自分が本当に壊れた理由。
「みーくんだったんだね、女子小学生殺害事件…殺害したのは被害者の同級生である男子小学生の少年A。異例の10才の殺人犯」
彼女は血で塗れた12月9日の大見出しを読み上げた。
「ああああ」
そう言う彼女の体にうずくまりながら呻く、僕。
そうだ、僕は人殺しなんだ。
大きな罪を犯した、平和に生きていちゃいけないんだ。
だから、だから親友も死んだのかな?
親友って誰だっけ…?
あ、あ…そうだ、現乃なら、何か知って…
「みーくんは、今までずっと忘れてたんだね…だから朝日のことも覚えてないんだ」
朝日?
朝日、朝日…森 朝日。
僕は偽って、嘘ついて都合が悪いと、忘れて…
思い出したくないことも心の奥にしまいこんで…
嫌なこと、悲しいことは全て忘れて。
だから、人殺しの自分も。
殺した同級生の少女も。
親友の森 朝日も。
全部忘れてたんだ。