ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 死体愛好者と正しい死に方 ( No.64 )
- 日時: 2010/08/03 18:39
- 名前: 月兎 (ID: QuEgfe7r)
第十三話「あの時」
—聞こえていますか、僕の声が、僕の心が、
ありますか、貴方の中に僕という存在は、人間は、
僕は誰ですか?
何のために生まれ、十字架を背負い、のうのうと此の世で生きているのでしょう?
知りたいな、知りたいな、自分の全て—
「美月、俺…現乃が好きなんだ」
ああ、そうきたか…
いつも聞いていた言葉、真剣さから伝わってくるのは一つだけ。
「告白するの?」
いつかは来ると思ってた。
「しようと…思ってる。だから美月に相談しようと…」
やっと朝日は告白する、親友としてどれだけ待ち望んだことか。
「相談じゃないだろ、報告。朝日が告白しないことに驚いてたんだから…頑張れよ、朝日!」
親友として笑って背中を押してやった。
「ありがとう!じゃあ俺いってくる」
嬉しかった、僕はこの後朝日が告白をした後のことまで勝手に想像していた。
朝日は現乃に告白して、もちろんОKを出される。
そうしたら朝日は泣くほど嬉しがってとび跳ねるかもしれない、いや…本当に泣くかも。
そうして一番最初に僕のところに飛び込んできてくれたら嬉しい。
朝日と現乃がカップル成立してずっとずっとこの先、もう二度と朝日が傷がつかないような、笑顔で毎日暮らすんだ。
僕のことは忘れてしまうかもしれない、そうでなくてあってほしいけれど。
その時はそれでいいんだ、いい、朝日が幸せならそれ以上幸せなことは無いんだから…
ドアの向こうから告白の様子をうかがう。
『現乃、俺お前が好きなんだ。好きになってくれ』
僕の耳には聞こえないけれど、朝日が頭を下げているところから告白したんだな、と決めつけて現乃に眼を移す。
『朝日、でも、私…ダメだよ、ダメ、そんなことしたら…』
パッと笑顔を写してそれから曇った顔で俯く彼女。
僕は嬉しすぎて泣いてるのかも、なんてこと思ってた。
でも、次の瞬間に僕が見た光景は…
朝日が手にカッターナイフを握って微笑んでいる姿だった。
それを見て彼女は一度今にも泣きそうな目で朝日を見上げた後に何か決心したように、諦めたように、でもどこかやりきれない表情で…
今までで僕が見たこともないような朝日の幸せそうな笑顔に微笑みかけた。
最後に朝日の口元が何かを3つに分けて語りかけた。
—僕にはもう何も残っていなくて、何も望んではいけなくて、最後の我儘が朝日と一緒にいることだった—
—だから、だから—
『愛して下さい』