ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 死体愛好者と正しい死に方 ( No.9 )
日時: 2010/06/28 15:52
名前: 月兎 (ID: iEydDqYB)

第三話「僕と彼女のふたり言」

—大切なことを忘れてる。
 でも、思い出せない・・・思い出したくない。
 もしそれを知ったとき僕はどうなるんだろう?
 考えるだけで「死にたい」独り言がまた増える—

教室のはじに一つポカンと空いた席。
そこの席に座るクラスメイトがこの教室に現れなくなったのは二ヶ月ほど前のことだ。

手前の席に女子が座っている、ということはその空席は男子ということになる。
僕の通う高校は男女で交互に座ることになっている、これもきっと授業中の無駄話削減のために教師達が頭ひねって考えた策なのだろうけど・・・
まったく効果はない、というよりも男子と女子の話のほうが断然多いのだ。

・・・と普通の高校の昼休みの光景。
僕は机に肩肘を突きながらそんなクラスメイト達のことを考えていた。

もっとも今一番の謎は、その二ヶ月前から突然いなくなったクラスの一人のことだ。
それも、皆僕に聞いてくる。
こっちが聞きたいよ、なんてことを思いながら頭を振っていたこれまた一ヶ月前の話。

でも、もうこの話はされなくなった。
みんな忘れたかのように・・・もしくは

もう、見ないふりをするように。

僕も話にはしなかったものの頭の中ではずっとこの話題で持ちきりだ。
そこの席の男・・・「彼」が誰なのか。
僕にとってどんな人物だったのか。
なぜいないのか。

何もわからない・・・

だがきっとこんなに簡単に忘れてしまうのならきっとどうでもいいんだな、なんて思ったりもして。

「まぁ、関係ないよな・・・」
ポツリといったその言葉、ひとり言のはずが思いもよらぬ声が耳に入ってくる。

「関係あるでしょーが!」
一人のかわいらしい少女の声。

驚いて振り返るとそこには、少し小柄なすごく整った顔立ちをした少女が頬を膨らませて立っていた。

それも仁王立ちで。

「現乃?なに、どうしたの?」
なんて軽く聞いてみる。
この美少女はクラスメイトの現乃 帝という女の子だ。
僕とはまったく絵にならないな、なんて本人を目の前にしても考えることができる自分、すごいな。

「どうしたの?ってみー君話聞いてない!委員会の話だよ」

あー。そうか、それ以外のことで彼女が僕に話しかけてくることなんてないもんな。
現乃とは偶然図書委員会で一緒になった。
それも彼女が本が好きだなんて少し以外な話だ。

「ごめん、委員会のことか。少しボーっとしてて」

「それいっつものことでしょーが」

なんていわれちゃったりもした。

—僕が見つめてたその空席には
『森 朝日』という名前が書かれていた。—