ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

2 自分の世界がいちばん ( No.5 )
日時: 2010/06/14 20:58
名前: 真飛 ◆v9jt8.IUtE (ID: SG7XrUxP)

 色々な世界がある、本って素敵だと思う。
 
 そう思ったのは五才の頃。
あの時は絵本ばっかり、と言うか絵本だけしか見てなかったと思う。
雪のように白いうさぎ、太陽のように明るいひよこ、草原で遊ぶ動物が沢山の絵本が、あの時は大好きだった。
 七歳の頃に、本、と言うものを読んだ。
パピーが日本から帰って来た時、『かな文字』で書かれている本を読んだ。実に興味深かった。読みにくいし、ボロボロの紙だったけれど、全部読みきった。
本当に面白かった。
 それから半年くらいだろうか、小説と言う本に面白さを感じたのは。
絵もないし、分からない言葉が出たりすると、パピーやマミーに訊いて教えてもらっては、紙にメモして覚える。
 学校に行く度に読み終わった本を持っていった。学校から帰る度に、まだ読んでない本を持ち帰った。
十三歳を超える頃には、学校にある全ての本を読んだ。
積み上げたら自分の背の何倍になるであろう本を、全て、全部。
 そして、今に至る。今となっては引き篭り。それくらい本は私に影響を及ぼした。
 ずっと本を読んでいたい。それだけ、たったそれだけ。

 茶色に焼けた暖かい色のレンガで作られた本屋には、色々な本がある。
 二日後に来るサーカス団に備えようってか? サーカスに関わる本が何十冊も置いてある。くだらない。
楽しむために、本なんか要らない。覚えたての知識振り回して楽しむより見て凄いって思う方がいいんじゃないのか、と思う。
まあ、別にそんなことどうでもいいのだけれど。
 私は、いつものダークファンタジー小説が置いてあるコーナーに行くと、白の表紙の至ってシンプルな本があった。
私がその本を取ろうとした——その時。
 「あー、道化師とか興味あるー? 俺も道化師なんだよね、ホラ、二日後に来るあの!」
道化師……ってピエロとか、クラウンとかと同じだし、二日後って……
「あのサーカス団?」
「そ。だけど今は静かにね。バレちゃいけないの」
紫とピンクがごっちゃ混ぜになった男性と思われるその人物は、人差し指を立てて私に言う。
「バレちゃいけないんだったらなんでこんな所に隠れてるんですか。純粋に本を買いに来た私の心がドス黒くなってきたんですが」
「うおっ!? お願い! こんな町あまり来た事無いんだよ! それにさ……ほら、明日のサーカスのチケット。夜からやるんだ」
その男性は、私が怒りそうになるのを抑えながら、言う。そして、ポケットを探ったかと思えば、紙。サーカスのテントの中に入れると言う、紙。言い方を変えるとチケット。
「要りません」
「えっ?」
私が怒りながら言うと、驚いた顔をしてから男性は言う。何か腹が立ったのだ。「これやるから許してよ」とでも言われたようだった。言い訳の代わりに物で釣るような。上から目線をされたようで、苛立った。
「要りませんったら! 人ごみとか、騒がしいのとか、嫌いなんです!」
大声で、私が叫ぶと、その男性は驚いていた。更に、サーカスの本の周りに集まっていた人も、私の声に驚き、野次馬として来た。その野次馬の中から私は出ると、すぐにレジに向かう。
 これだから、サーカス団とか、貴族とか、特別な所に居るような奴らは嫌いなのに。
 レジからあの男性が居る所を見ると、その男性は頭を掻いて「何かおかしかったかなあ?」と言う顔をしている。あれだから、ムカつく。
 でも私もなんで怒ったんだろう。違う、怒るべき所が違うのか。ああ、言いたい時に言えない私が嫌い。
 本屋を出て、自分の家もとい、それより遠いサデュラさんの家に向かった。
 お母さんから借りた二ポンドを早く返せるように。