ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- ちっちゃなユガミとおーきなシット ( No.11 )
- 日時: 2010/06/28 17:48
- 名前: 烈人 ◆ylmP.BhXlQ (ID: WPWjN3c4)
だったらとめてきなさいよ。
(やだ。俺に利益ないもん。)
#04 - ついにはじまったんだ
がたんっ! と大きく荒々しい音をさせて、柊咲也が立ち上がったのは二時間目の国語の時間だった。
今勉強している物語の段落ごとに『小見出し』を考えろとかで、班で話し合うことになった。
とはいっても、私の班はただ白岩さつきと長井春が馬鹿な話をしているだけ。
他にも誰も喋らない、なにも言わない。先生が『話し合ってるの?』と聞いてきても、無視。
ある意味問題な班だったが、先生も事情を知ってか知らずかなんとなくカバーしてくれているっぽい。
けれどそんな今までの私達の班——七班は、柊咲也が入ってきたことにより大きく変わることとなる。
そもそも何故柊がこのようなことをしたのか。まあ、そういう性格だということだろう。
柊は言った。『この班、ばっかじゃねーの』と。
「————」
その一言で、班内は一気に静まり返った。といっても、喋っていたのはあの馬鹿な二人だけだったが。
得体の知れない、まるで底なし沼のようにねっとりしていて不気味な響きを持った柊の声は、可笑しなまでに教室内に響き渡った。
教室内が静まり返るのにも、時間は掛からなかった。
「なぁ、お前らなんなわけ? なんで関係ないことばっか喋ってんだ? はあ?」
立ち上がった柊は、目に明らかな殺気を込めて馬鹿な二人を見下ろしながら、ドスの聞いた低い声でそういった。
びく、と白岩の肩が震える。長井のほうは完璧にびびっているらしく、今にも奥歯ががちがちと鳴り出しそうだ。
そんな二人に、柊が続ける。
「お前らさぁ、『話し合う』っとこと知らないわけ? なに? 馬鹿なの?」
ため息を交えながら、柊はそう言う。私の言いたかったことで、なんとなくすっきりする。
教室内は異様なほどに静まり返っており、隣のクラスの喧騒がやけに遠く聞こえる。
先生も身が竦んでいるのかは定かではないが、どうやら柊を止めることは無さそうだということはわかる。
確かに生徒が生徒を注意するのはいいことだし、実際柊の雰囲気に押されているところもあるのだろう。
「なんか言えよ。俺は聞いてんだ。答えろ。さっさと答えろ」
語尾に感嘆符がつくほど強い口調ではないが、キツい口調であることは間違いなかった。
私に向かって放たれているなら、恐らく何も言えずただ俯いていることしかできないだろう。
先生が怒っている時よりも怖い。私でさえこう感じるのだから、……まああの二人の恐怖は計り知れないだろう。
でも、他人事だ。私には関係無い。自業自得、というかまさにこれが私の望んでいたことだ。
「……っ……」
「なにびびってんだよ。お前らは答えるってことも知らないのか? 答えろっつってんだ」
それにしても、口調が変わりすぎだ。それが余計に私にとっては恐怖感を与えているのだが。
隣にいるだけあって、結構な威圧感がある。できれば今すぐここから離れたい。
というより、柊咲也という存在から離れたい。ああ、私まで体が震えてきそうだ。
「自業自得なんだよ。いい加減にしろよな? ああ、次ちゃんと話し合いしないようだったら——」
そこまで言って柊が言葉を切ったので、私はこっそりと柊を見上げてみる。
戦慄、というモノが背中を駆け抜けたような気がした。放つ不気味な殺気が、それを後押しする。
笑っていたのだ。にっこりと、無邪気で幼い子供の笑顔を、殺気という名のアクセサリーで飾り立て。
見ていると気が狂ってしまいそうな、その笑顔。ごくり、と無意識のうちに唾を呑む。
次の言葉が紡がれるのが、無性に怖かった。
「——〝壊す〟から」
〝壊す〟。〝こ〟が聞こえてきた時、まさか先生がいる前で〝殺す〟というのかと思ったのだが——出た言葉は、より邪悪に聞こえる不安定な言葉だった。
壊す? なにを? けれど、そんな疑問さえ柊咲也というニンゲンの前では吹き飛んでしまう。
むしろ『殺す』という言葉よりも、柊咲也というニンゲンには『壊す』という言葉のほうが似合っている。
先生さえなにも言うことが出来ず静まり返った二年一組の教室内に、二時間目終了のチャイムが鳴り響いた。
- ちっちゃなユガミとおーきなシット ( No.12 )
- 日時: 2010/07/13 18:01
- 名前: 烈人 ◆ylmP.BhXlQ (ID: WPWjN3c4)
がんっ!
「……あーあ」
可愛らしいピンクの花柄の筆箱が私の目の前を通り抜け、荒々しいうるさい音をたてて教室の壁に当たる。というか、顔すれすれだったんだけど。
当たっていたらどうなっていただろう……なんて暢気なことを考えていると、口からため息が洩れた。
半ば、予想していたことだった。中学生なんだし色々人間関係なんたらでごちゃごちゃしてるんだろうなー、って。
ついにはじまったのか。不思議と、そんな落ち着いた気持ちで入れている。私って、薄情なのかな。
ていうか、そんなことはどうでもいい。対して交友があった子でもないし、……虐められても仕方ない子だと思うし。
いいのは容姿だけ。さらさらの綺麗な黒髪ロングに、はきはきとものを言いそうなぱっちりとした可愛い——それでいて冷静さが伺える少々つりあがった目。
といっても悪い印象を与えない。ちなみに二重。きりっと結ばれた唇に、整った顔立ち。
可愛い、というよりかは美人という印象のほうが強いかもしれない。……といっても、それは容姿だけ。
「多分、人見知りなんだろうねえ」
「なんであんたがでてくんの」
数人の女子に囲まれ何か言われたり投げられたりしている花畑蘭を見据えていると、柊に声を掛けられた。
まあ後ろの席だから仕方ない……ってそんなわけでもない。転校してきてから三日目。
一日目の二時間目には驚いたし、周りから距離を置かれていたけれど今はもう馴染んでいる。
といってもぎゃあぎゃあ騒ぐのが嫌いなタイプなのか、自分から友達の仲に入ろうとはしない。
休み時間中、次の授業の準備をしているとよく話しかけられる。……まあ、授業中もだけど。
「いや、だって席後ろだし」
「関係ないじゃんそれ」
うっとおしいとは思いつつも、柊と話すのには結構慣れてきた。……とはいえ、いつも纏っている不気味なオーラにはさすがに慣れることはできなさそうだが。
相変わらずの自分でもばかばかしいと思う会話をしながら、花畑をぼーっと見据える。
「……ていうか、これって嫉妬でいいのかな」
「まあ、嫉妬だろ。性格に問題があるからそこに付け込んでいいように理由つけて、みたいなタイプか」
「確かに、そんな感じだよねえ……」
花畑蘭。一年生のころも同じクラスだったから、性格はよく……というほどでもないが知っている。
とにかく、大人しい。おどおどしていて、完璧な人見知りだ。折角の容姿がもったない、と心底思う。
小学生のころから仲のいい友達はいなかったのか、入学当初からずっと独りだった。
その容姿を見て感心して近づいてくる他の小学校だった生徒もいたが、性格により全て離れていった。
話しかけても「はい」や「え……」など以外答えない。根暗、とはまた違うような気がする。
なんというか、とにかく人見知りなのだ。話しかけれれば答えるが、話しかけられないと何も言わない。
「成績優秀らしいね、花畑さん」
「なんであんたが知ってんの?」
柊の言うとおり、花畑は成績優秀。学年でいつも三番以内には入る。運動は全然できてないけど。
ていうか、なんで柊が知ってるんだ。まだ転入してきてから三日目のくせに。
「いや、怜來に聞いたんだけど。俺も花畑さん虐めないかって誘われてさー」
「へえ。あ、それで色々聞いたんだ。んで、なんて答えたの?」
柊ならどぎつい返答をするだろうと思って若干わくわくしながら尋ねたのだけれど、残念ながら帰ってきたのは平々凡々な言葉だった。
ていうか、柊には似合わなさ過ぎる言葉だ。
「『俺はいいや。眺めとく』って。まあ、傍観者が一番楽だしねー」
「……それには同意するよ」
私も夕紀に『虐めない?』と誘われたけれど、別に花畑のことが嫌いなわけではないので柊と全く同じ答えを返した。
ということは、柊と思考回路が同じってこと? ……あー、それはそれでなんかヤダなぁ。
多分私は、傍観者であり続ける。
これからずっと響くであろう、花畑蘭の叫びを聞きながら。
そして加害者達の、愉快な笑い声を聞きながら。
(私は傍観者になって眺めとくよ)
* * *
頬に投げつけられた自分のピンクの花柄の筆箱を手で握り締めながら、花畑蘭は小さく呟く。
「——殺してやる……」
誰にも聞こえない、小さな小さな声で。
——狂気の姫のその言葉を聞いた者は、誰もいない。
#04 - end
一章*ちっちゃな出会いとちっちゃな非日常 - END