ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- ばいばいさよならまたどこかで ( No.5 )
- 日時: 2010/06/17 23:35
- 名前: 烈人 ◆ylmP.BhXlQ (ID: WPWjN3c4)
一章*ちっちゃな出会いとちっちゃな非日常
(本当にちっぽけね)
#01 - さよならさよならこんにちは
「ふぁあ……」
いつもと同じように、朝が来る。やっぱり何も、変わらない。……いや、変わるほうが可笑しいんだけれども。
学校行きたくないなぁ。そんなやはりいつもと同じ憂鬱な気分を抱えながら、私はベッドから下りた。
**
学校へつくと、ほんのちょっぴりの非日常が私を出迎えた。いつもと同じように幼馴染と登校して、鞄を片付けて。
チャイムが鳴って、先生が教室に入ってきて。本当にちょっぴりだけれど——非日常は、先生の後についてきた。
綺麗な、黒髪。いやそりゃみんな黒髪——染めてる子とか茶髪が地毛の子は除外して——だけど。
でもそんな黒髪なんかとは違う、見てるだけでもさらさらしてるってわかってとても綺麗な艶の髪。
顎辺りで切り揃えられた髪。寝癖とか全然無くて、一目見れば『清潔』という言葉が脳裏に浮かぶ。
そんな髪をした男子が、先生の後について教室に入ってきた。
大人しそうでクールで……でもどこか、人をよせつけないというか。ちょっと不気味なオーラを放っている。
顔はかなり美形といってもいい、と思う。性格にもよるけどこれはモテるだろうなぁ。
そうぼーっと考えていると、先生が声を張り上げた。
「このクラスに転入生が来ます。というか、もう来てもらってますね」
ウケ狙いなのかはわからないが、先生がそう言ってから軽く笑った。教室内はシケているけれど。
やっぱり、転入生か。うちは一組だから、転入生が来たらこの組に入ることになるとか言ってたような気がする。
ていうか、なんでこんな微妙な時期に? 急な親の転勤か何かか? ……どうでもいいけど。
「今日からこのクラスの一員となる柊君です。どうぞ、自己紹介してね」
「あ、……はい」
声はふんわりとした優しいテノールだった。男にしてはちょっと高めかもしれない。
柊と呼ばれたその男子はちょっとぎこちない動きで一歩前に進み出て、ぺこりと頭を下げてから、言った。
「柊咲也です。家の事情で引っ越してきました。よろしくお願いします」
……固い挨拶だなぁ。いや、そりゃ転入してきたんだから緊張はしてるだろうけど。
というか何気に性格良さそうだし。女子の人気も高いだろうなー。……友達に一方的な惚気話聞かされなきゃいいけど。
そんなの、うざいだけだし。無理して『かっこいいよね』とか合わせるの好きじゃない。
気がつくとみんながぱちぱちと気の抜けた拍手をしていたので、私も慌てて合わせて拍手する。
「みんな仲良くしてあげてねー」
先生のその言葉に、「はーい」と何人かが答える。まぁあの容姿なら、よっぽど性格悪くない限り友達ぐらい普通にできるだろうけど。
「席は片岡さんの後ろ——窓際の一番後ろの席ね」
……私の後ろかよ。そういえば今まで無かった場所に席が増えてたっけ。いや元からそういう予感はしてたけど。
てことは、私達の班に入ることになるのかな。柊君も災難なことで。どうでもいいけど。
柊君は先生に「はい」と返事をすると、席のほうに向かって歩き出す。
彼が席につくと、先生が今日の予定とかを話し始めた。
**
馬鹿な人、というのが三時間目まで一緒に過ごしてみてからの私の柊君への印象だった。
一時間目終了後には人気者っぽかった柊君だけど、今はもう周りには誰も近づいていない。
そりゃそうだろうなぁ。あれだけ派手にやっちゃったら。先生とか先輩に目つけられないかなぁ。
三時間目終了後の、十分休み。教科書とかを準備してる私は除くとして、柊君の周囲には人気自体が無い。
どうやら完璧に『怖い人』として認識されてしまったようだ。私は別にそんなものは気にしないけれど、確かに怖いとは思った。
「片岡さん」
不意に後ろから声が飛んできて、……それが柊君の声だとわかった時は少し驚いた。
振り向いて、「なに?」と無愛想に尋ねる。柊君は、背筋がぞくっとするような……なんだかとても不気味な笑みを浮かべていた。
「今までさ、……よくこんな班で過ごせたね」
「……まぁ、まだ席替えして一週間だし」
体が震えそうなのを悟りながら、私は淡々と返す。混乱にも似た恐怖感が、じわじわとせり上がってくる。
「凄いな。俺だったら……ちょっと、駄目かも」
「……なにが駄目なの? 今日あんなことしたくせに、さ」
続けて紡がれた柊君の言葉に、少々間をおいてから言葉を返す。何故だか声が、掠れている。
言ってしまってから、少々挑発的だったかもしれないと後悔したが、今更思っても遅い。
けれど柊君はそんなことを気にしてないようで、さらに言葉を続けた。
「片岡さん、下の名前なんて言うの?」
……何故そんなことを聞かれるのかわからなかったし、一緒のクラスにいればいずれわかるだろうとあえて無視しておいた。
それから彼との会話を断ち切るために、もしかしたら怒られるかもしれないという不安を抱えつつ、口から言葉を吐き出した。
その言葉は、あの時からずっと思っていたこと。
「……虐められるとかさ、そんなことも考えたほうがいいよ」
そして友達のところへ行こうとした時、……柊君がぽつりと呟いた。——否、『囁いた』のほうが正しいかもしれない。
「……大丈夫だよ。俺の精神は、それぐらいで壊れるほどやわじゃない。それ以前に、俺は『虐められない』」
あまりにも断言した口調で、ありえない言葉で、……そして、あまりにも不気味に響いて。
思わず私は、振り向いてしまった。柊君は、相変わらずの笑顔のまま——言った。
「俺、『殺し屋』だから」
その笑顔はどこまでも透き通っているように綺麗で、……私は思わず、友達のところへ走っていった。
否、『逃げていった』。
(ばいばい日常)
(——こんにちは、愛しい愛しい非日常さん)
#01 END.
柊 咲也(ひいらぎ さくや)
※れっとが「名字柊で下の名前に咲がついて男子の名前作って!」から生まれた子です。
当初の漢字は「咲夜」でしたがとーほーさんになんだかそんなお方がいるとかいないとか聞いたので漢字変えました。
何気に気に入ってる名前だったり。最初のキャラ説ではクールだったのに……! どこがクールだただのドSじゃないk(←