ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

ありえないよそんなこと!(それがありえるんだよねえ) 1/2 ( No.7 )
日時: 2010/06/23 19:38
名前: 烈人 ◆ylmP.BhXlQ (ID: WPWjN3c4)

うるさい黙れ!
 (黙れといわれて黙るヤツはいないよ、馬鹿を除けばね)



     #02 - ああもううるさい黙ってて



 少年は少女に問いかけた。少女は答えもせずに窓から飛び降りた。
 数秒後、ぐしゃっという生々しい音がどうすることもできなかった少年の耳にこびり付いた。



**



“俺、『殺し屋』だから”

 移動教室からの帰りの廊下で、彼女は可笑しな羞恥に心を呑まれようとしていた。
 不気味なほどに耳に張り付いている柊咲也の声を何度も思い出しながら、彼女は大きくため息をついた。
 今考えると、何故自分があの時あれだけ恐怖感というモノを覚えてしまったのか、全くわからなくなっていた。
 確かに、怖かったのだ。凛とした雰囲気、鋭く不気味に笑みを模る瞳。

 彼女はそれら全てに恐怖を感じた。だからこそ、柊咲也の前から逃げたのだ。
 
 けれど。あの時彼が言ったのは——こんな日常の中ではあまりにもありえない一言。
 きっと、冗談で言っているんだろう。今更彼女はそう思い直す。
 そうだ、『殺し屋』なんているわけない。彼女は自分自身にそう強く言い聞かせながら、友人に向かって問いかける。

「ねえ紅葉、『殺し屋』っていると思う?」

 その友人——双葉紅葉は彼女の問いかけを聞いてきょとんと目を丸くする。
 それから笑い出すというわけでもなく、ただ意外そうに笑顔を浮かべた。
 
「ひーちゃん、『殺し屋』って……あの漫画とかによく出てくるアレ?」
「うん」

 紅葉の言葉に、ひーちゃんと呼ばれた彼女は返した。
 すると紅葉は小さく笑い声を立ててから、冗談めかして彼女に言った。

「さあね? いるかもしれないね、そういうの。美麗おじょーさまに聞いてみれば?」

 紅葉の少々皮肉が混じったような声色に、少々むっとした表情になる彼女。
 しかし次の瞬間にはすっかり表情を和らげて、ふんわりとした笑顔を浮かべた。

「……まあ、いるわけないか」

 そう呟いて、ふと視線を上げる。そろそろ教室へつく頃だ。
 ちょうど目の前には、二人の友人と並んで歩いている、先程紅葉の口から名前の出た——葛城美麗が歩いていた。
 どうやら紅葉はずっと前からそれを知っていたようで、やっと彼女が確認したことを悟ると、言った。

「ほら、美麗いるよ? 聞いてきたらどお?」
「……うーん」

 葛城美麗。執事などがいるわけではないが、お嬢様といっても差し支えは無い。
 そんな美麗は何故か情報通で、とにかく色々な情報を持っている。
 何度かクラスメイトが「なんで知ってるの?」と聞いたようだが、答えはいつも「さあね、なんででしょう」とはぐらかされるだけ。
 実は親が裏社会の人間だとか、美麗自身がもはや裏社会の住人になっているとか、よくない噂が結構流れている。
 けれど別に美麗は気取っているわけでもリーダー格というわけでもなく、むしろクラスでは人気者だった。
 周囲から怖がれることなどは皆無と言っていいが、よくない噂が付きまとっているのは事実だ。
 ただ、美麗の明るさや優しさで打ち消されているだけで——事実がどうなのかは、誰にもわからない。

「あたしが聞いてこようか?」
「べ、……別にいいよ。さっきの話は忘れて!」

 駆け出そうと構える紅葉に、彼女は慌ててそう言った。
 「えー」と少し残念そうに紅葉が声を洩らす。

「ほら、次の授業はじまっちゃうよ!」
「知ってるよそんなことーっ」

 早くその話を終わらせるかのように、彼女は紅葉に声を掛けてから走り出した。


「(あぁ……自分の席に戻るのが辛い……)」


 あの時感じた恐怖を再度思い出しながら、彼女は不安そうに表情を歪めた。








**
双葉 紅葉(ふたば もみじ)
※「双葉の名字で名前作ってー!」から生まれた子。

葛城 美麗(かつらぎ みれい)
※はい名字ライアーゲームじゃないかとか言わないの。
  美麗って名前可愛いよねっていう友達の言葉から出来た名前。
  本当は葛城で違う名前を作ってたんだけど「美麗のほうが葛城にあうんじゃね?」という友達の言葉でこーなりました。

ありえないよそんなこと!(それがありえるんだよねえ) 2/2 ( No.8 )
日時: 2010/06/23 21:37
名前: 烈人 ◆ylmP.BhXlQ (ID: WPWjN3c4)

「ねえ」

 びくっ、と彼女の体が揺れる。それを確認した柊は、心底楽しそうに言葉を続けた。

「名前、聞いたよ。『ヒマワリ』っていうんだって? 可愛い名前だね」

 柊のその声を聞いた彼女——片岡ヒマワリはしかめっ面して柊のほうへと振り返った。
 とはいえ授業中なので、横を向く形で目だけを後ろに向けている。
 なにか気持ち悪いモノでも見たかのような目をしながら、ヒマワリは柊に小声で問いかける。

「……なんで知ってんの」
「聞いたからだよ。ひーちゃんはどうやら俺が虐められるんじゃないか、って心配してたみたいだけど——」
「ひーちゃん言うなっ」

 柊の言葉に思わず普段の声量になりながらヒマワリが突っ込んだ。
 周囲からチラチラと視線が向けられるが、今のヒマワリには正直それはどうでもいいことだった。
 できれば今すぐにでも柊を殴ってやりたいところだが、今は大人しく次の言葉を待つことにした。

「そういわないでよ。まあ残念ながら、俺は恐怖の対象としてじゃなくて好奇の対象で見られることになりまして」

 ああ、とヒマワリは心の中でため息をつく。どうせなら虐められてくれればよかったのに、とやけくそ気味にやはり心の中で吐き捨てる。
 げんなりとした表情になりながら、柊を睨むようにじろっと見据え続ける。

「ひーちゃ……片岡さんが出て行ったすぐ後、何人かの男子が話しかけてきてさ。祝、お友達誕生ーっ! ……ってわけなんだけどさ。まあ、残念でしたということで」
「……言いたいのはそれだけ?」

 やけに挑発的な口調の柊をじろりとキツく睨みつけてから、ヒマワリはぼそりと言葉を吐き出した。
 うざい。とてつもなくうざい。とにかく一発殴ってやりたいという衝動を必死にヒマワリは押さえ込める。

「ん、もう一個あんだけどさ」

 にやり。不意に柊の顔いっぱいに口が裂けてしまうのではないかというほど不気味に笑みが広がり——


「『殺し屋』っていうの、言っとくけど本当だからね」


 淡々と吐き出された、その言葉。凛とした不気味な響きがあたりに広がり——いや、実際は広がってなどいない。
 広がっているように錯覚してしまう、ただそれだけのことなのだ。
 洗脳でもされるかのように、長い間耳に残り脳を激しく揺さぶり続けるその声。

「……っ……!」

 ヒマワリは思わず、がたんと椅子から大きく音をさせて、前に向き直った。がたがたと、肩が小刻みに震えていた。

「……面白くないなあ。そうだろ、エガオさん?」

 後ろからヒマワリに向けて飛んでくる柊の言葉に——片岡笑顔は、ただ黙って震えることしかできなかった。


**


 幼い頃から、言われてきた。『可笑しな名前』だと、言われ続けてきた。
 ヒマワリという名前は別にいい。問題は、漢字なのだ。普通に向日葵でよかったのに。
 何故、私の親は『笑顔』なんてありえない漢字をつけたのだろうか。
 憎しみ? そんなモノは別に湧いてこない。怒り? そんなモノも湧いてこない。
 ただ湧いてくるのは、親に対しての『呆れ』。ただ、それだけ。
 私はこの名前で虐められそうなったこともあるっていうのに。親は何も知らず、能天気だ。

『ひーちゃん、って呼んでいい?』

 幼い頃に聞いた、あの子の声が甦ってくる。けれど、すぐに消えてしまった。
 あの子とは、とうの昔に絶交したのだ。もう何年も、喋っていない。
 声を覚えていなくても、不思議じゃない。



        (残るのは、)




             (無意味な哀しみ。)








                              #02 END





片岡 笑顔(かたおか ひまわり)
※なんかの拍子に珍しい名前の話になって、友達が「笑顔でひまわりって凄くない?」って言ったことから。
  名字も考えてもらいました。ごめんね有難う。

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題名と内容関係ないとか言わないでくださいお願いします本当にry