ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

呪縛は彼の心をひたすらに縛り上げる ( No.9 )
日時: 2010/06/25 13:31
名前: 烈人 ◆ylmP.BhXlQ (ID: WPWjN3c4)

 彼女は、生きていた。死んだ彼女が、生きていた。


     (さよならの代わりにあげるよ)



                         (俺の、この想い)





     #03 - ごめんね,これが俺なんだ



 それは、柊咲也という人間の人生の、小さな小さな一ページにあたる。
 彼が始めて人を殺したのは、七歳の時。殺したといっても、直接手を下してはいない。
 したのは、ただ火をつけただけ。それだけ。遊びのつもりで行った、その行為。
 彼は今でも覚えている。鍵の掛かった扉の向こうで必死に喚く兄の声を。
 兄の叫び声を。兄の悲鳴を。兄の断末魔を。兄が煙でむせる音を。兄が扉を開けようと扉へぶつかってきた音を。


「————」


 ただ、呆然と立ち尽くしていた。外からしか開けられない、特別な兄の勉強部屋。
 兄が自ら両親に頼み、物置だった部屋を勉強部屋にしてもらったのだ。
 兄は昔から、賢かった。小学生の頃受験し、その辺りでは一番賢い中学校へと進んだ。
 けれど、それまでだった。結局兄はそこの勉強についていけず、成績は下がる一方。
 そんな時兄が考えたのが、この勉強部屋だ。勉強道具以外は持って入らず、時間になると両親が扉を開けて、やっと外に出られる。
 これなら、勉強にも集中できるだろう。兄は作ってもらったその部屋にこもって、何時間も勉強を続けた。


「————」


 今でもはっきりと思い出せる、兄の声。恐怖と困惑と絶望と混乱と狂気が入り混じった、おぞましい叫び声。
 全て悪いのは、彼なのだ。彼が兄に構ってほしいばかりに、扉に火をつけたマッチ棒をくくりつけたりしなければ。
 扉が焼けてしまえば、兄は自由になる。一緒に遊べる。幼かった彼は、そうすればいいと思い込んでいた。
 扉以外の場所に火がうつるたびに手に持ったバケツや如雨露じょうろで火を消す。
 確実に、扉を焼き尽くすために。


 ぼう、


 火が急激に勢いを増したとき、彼は手に持った水を無駄に床にぶちまけて、一階にいる両親の元へと走っていった。
 その時、言った言葉。兄のことを心配するわけでもなく、……ただひたすらに、無邪気な言葉。

『ねえ、二階で火がついてるよ』




**




 ぽつりと零れた嗚咽に、美咲は彼の顔を覗き込んだ。けれど顔は両手ですっかり覆ってしまっていて、泣いているかどうかは確認できなかった。
 時折彼は、こうして嗚咽を上げる。そのたびに血の繋がっていない妹は、兄の顔を覗き込むのだった。



   (ごめんなさい、)




    (ごめんなさい、)



      (ごめんなさい、)





          (ごめんなさい、)

オオきなツミとカコのバケモノ ( No.10 )
日時: 2010/06/25 20:49
名前: 烈人 ◆ylmP.BhXlQ (ID: WPWjN3c4)

 柊遊也。咲也の兄であった遊也は、咲也の無邪気な幼い行動で死んだ。
 それは誰も知らない、咲也しか知ることのない事実。自首しようかと、彼は何度も考えた。
 だんだん成長してくるにつれて、あの頃の自分の行為がどれだけ恐ろしいモノかを、判断したのだ。
 やがて両親を苦しめた罪悪感と、大好きだった兄を自らで殺した罪悪感なんて言葉では到底あらわすことのできない感情が彼を苦しめ始めていた。
 けれど、しなかった。理由は、ひとつ。遊也の死から立ち直れなかった両親が美咲を引き取ったのだ。
 生まれたばかりの頃に両親を強盗に殺された美咲は、引き取ってくれる親戚がいなかったため施設に入れられた。

 咲也の両親は、男児の兄弟だったことを決して嫌とは思っていなかったが——女児が欲しい、と思ったことがあるのは本当だった。
 そこで両親らは一つの施設を訪ね——そこでであったのが、美咲。上月美咲だった。
 美咲を引き取り、美咲はすぐに咲也に懐いた。にっこりとした綺麗な笑顔を見て、彼は思う。

 ——自分は、ここにいてはいけない存在なのだと。

 けれどそれと同時に、ここから自分がいなくなれば、きっと美咲が哀しむだとうと思った。
 だから、自首できなかった。もし両親が美咲を引き取っていなければ、今はどうなっていたかわからない。
 といっても意図的に行ったことではなく、しかも幼いころのためただの『妄想』として扱われる確立のほうが高いだろうが。

 それでも、罪を償いたかった。贖罪をしなければいけないと、彼は思った。

「……あぁ、目、潰そう」

 そんな彼が思い立ったのは、自らの目を潰すこと。特に意味も無く、自らに絶大な痛みを与えれればそれでいいと思っていた。
 包丁などを使うわけでなく、じわじわと痛みを受けなければいけないと彼が使ったのは、シャープペン。

 彼は少々躊躇いつつも、シャープペンを自分の目に突き刺したのだった。
 それは柊咲也が、小学六年生になる直前のことだった。



**



「……は?」
「だから言ってるんだ。彼女を『消してくれ』」

 ぎろりと鋭い目付きでこちらを睨みつけてくる中学生らしき少年が戸惑う同じく中学生であろう少年に向かっていった。

「……消してくれって……あの人、あんたの姉じゃんか」
「死んだんだよ。アイツは死んだ。死んだはず。死んだんだ。飛び降りたんだよ俺の前で、死んだ、死んだ!」
「……大丈夫かよ、あんた」
「大丈夫? そんなわけないだろ。アイツが俺の目の前に現れてから俺がどんな気持ちなのかわかるか? なんで今更になって生き返った、死んだままでよかったッ!」

 狂ってるとしか思えない言葉を紡ぎだす彼を、少年は冷めた目付きで見据えていた。
 けれどその瞳には、馬鹿にするような感情は含まれていない。あるとすれば、『哀れみ』だった。

「ああ——あんたのお姉さんも、なったんだ」

 それからふと、少年は早口で喚き散らす彼に向かって小さく呟くように吐いた。
 ぴたり、と彼が動きと言葉を止める。少年は彼を氷のような冷たい眼差しで見据えながら、言葉を紡いだ。

「いい人を紹介してやる。そいつに頼め。俺はそういうのは専門じゃない」
「……わかった」

 彼はそう返事すると、落ち着いたようで倒れていた椅子を起こして座った。
 次の瞬間、少年の目が虚空に泳ぎ——ばたりと、椅子を派手に倒しながら床に倒れた。



**



「さて問題です。『笑顔』って書いて、なんて読むよ思う?」
「……『エガオ』じゃないの?」
「ざーんねん。答えは『ヒマワリ』でした」
「えー、変なの」

 美咲の言葉を聞きながら、咲也は苦笑した。
 忘れもしないあの激しい痛みとともに光を失っていた左目の奥が、じりじりと疼くのを感じながら。





     (過去にとらわれ、)




            (やがて過去はバケモノと化す。)








                               #03 - end










柊 遊也(ひいらぎ ゆうや)
上月 美咲(こうづき みさ)

意味わからん(書いてるお前が言ってどうする
いや、話はまとまってますけど。はい、ここからいきなり非日常に突入しますよー。
そこはあえて軽く受け流してくださいね。うへあ。だれかコメくだs(爆