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第一章　一話目　〜前の俺〜

　暗闇に、一人の少年がいる。
　周りには建物も、動物も、光も何もなかったのに、少年の姿だけははっきり見える。
　十代後半の高校生くらい。黒い髪の毛の一部は、なぜか赤くなっている。
　突然、彼は走りだした。
　目指すところは、彼にしか見えていないようだった。
　そして———。

　キキイィィッ　ドンッ。

「うあぁ！」

　彼は自分のベッドで飛び起きた。
　首にはへばりつくように汗がにじみ、顔色は悪い。
　少年は横に置かれている机の上の、目覚まし時計を見た。

　「４時…」

　少年はムクリと起き上がる。ベッドから降りようとするが、足は震え、降りても歩き方がおぼつかない。
　ようやく机にたどりつき、６時にセットされた時計のアラームをなる前に止め、制服に着替え始める。
　着替えながら、少年は独り言を呟く。

「まただ…」

　彼の脳裏に、夢の出来事が鮮明に写る。

「今日で、１３回目…」

　急に少年を、吐き気が襲う。吐きそうなの凌ぎ、口を手で押さえ、咳に変えた。激しい咳になる。
　押さえていた手をみると、血が混じっている。

「血を吐いたのも、これで、４回目…」

　少年は冷静だった。しかし、彼の額にも冷たい汗が浮かぶ。血をティッシュで拭い、ワイシャツ、ズボンを着る。
　学校支度は、終わった。

「だめだ…忘れられない…」

　少年は椅子に落ちるように座った。

「前世…」

　彼は机に顔を突っ伏した。