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Re: ━ESP━『エスパー』15話うp♪ ( No.59 )
日時: 2010/07/18 17:58
名前: 遊太 (ID: KF4wky37)

16【天馬の家族】

「い、いえ!!息子はまだ・・・・分かりました。」

天馬の母、由美子は受話器を置くとリビングのソファーに腰掛ける。
「どうだ?天馬はいたのか?」
「いないわ・・・あの子ったら・・・・」
防衛省に勤める天馬の父、英明はため息をつきながらスーツのネクタイを緩める。
「塔子ちゃんは?あの子には言うな。」
「分かってるわ・・・でも・・・」
由美子は液晶テレビの上に飾られた家族の写真を見る。
写真はどこかの遊園地で撮影したらしく、天馬と由美子と英明が笑顔で写っている。
「・・・塔子ちゃんを養子に引き取ったのが・・・間違いだったのか・・・・」
「あ、あなた!!!」
由美子は英明の言葉に腹をたて、思わず立ち上がる。
英明はすぐに自分の言ったことを恥じらい、由美子に謝りながら頭を下げる。
「・・・・とりあえず、俺は防衛省の仲間と探してくる。お前はここにいろ。」
「分かったわ。」
由美子はソファーに座り、英明は鞄を持って家を出て行った。
その時だった。

「ただいまーー!!」

玄関から聞こえる元気な声。由美子は暗い顔を無理やり明るくする。
「おかえり、塔子ちゃん。」
「ただいま!あれ、天兄は?」
‘天兄’とは、天馬お兄ちゃんの略称だ。
ショートヘアーに癖毛がつき、小柄な女の子は制服姿で全部の部屋を見渡す。
海藤一家の養子、塔子は由美子を見ると首を傾げる。
「天兄は?」
「えっと・・・学校で先生の手伝いをしてるの。」
「帰ってくるんだよね?帰ってくるんだよね?」
塔子は涙目になりながら由美子に聞く。
塔子は天馬のことを本当の兄の様に慕い、いつもくっついている。
「帰ってくるわ・・・」
由美子は塔子の頭をなでると、ベランダから沈みかけている夕陽を見る。
由美子は最悪な事態が起こらないことを願うのだった。


**********


‘アビリティ’ 社長室


由美子と同じ夕日を、天馬は見つめていた。
社長室には冥堂、算介、亜樹、三郎と天馬を合わせた5人が集まった。
「まずは御苦労。天馬君、傷は大丈夫かい?」
「はい。掠り傷程度です。」
冥堂はその言葉を聞いて胸を撫で下ろす。
「敵の一人を拘束した。君らAチームは引き続き、逃亡したクライムの後を追ってくれ。」
「だけど、どこに行けば?」
算介の質問に、冥堂は顎を触りながら振り向く。
全面窓張りの壁から、夕日が間近に見え、社長はシルエットにしか見えない。
「千葉支部にいる草屋君が情報を手に入れるまでは、百宮高校の警備についてくれ。」
天馬はその言葉に疑問を抱く。
それに‘草屋’という名前は前にも聞いたが、一体何者なのだ?
「あ、あの、千葉支部って、なんですか?」
天馬はとりあえず、ダイレクトに疑問をぶつけた。
すると、亜樹が天馬の肩に手を置いて首を横に振る。
「その話は後。あなたは、早く帰った方が良いわ。」
亜樹の言葉で、天馬は冷や汗をかく。

あの事件の後に消えれば、かなり怪しまれるのでは?

「警察には知り合いがいるし、私から連絡をとっておく。早く帰りなさい。」
「は、はい!!」
天馬はそう言うと、大慌てでエレベーターに乗り込み、家へと戻った。


**********


家に着いたのは夜の7時前だった。
夏だから夕日が沈んでもまだ明るいが、玄関の前に来ると気持ちが暗くなる。
「た、ただいま〜ぁ・・・・」
天馬は小声で静かにドアを開ける。
その瞬間。

「天兄!!」

ドアを開けた瞬間、塔子が天馬に抱きついてきた。
「と、塔子ちゃん・・・・」
「天馬!!」
リビングからやってくる由美子と英明。表情はかなりピリピリしている。
「ご、ごめんなさい。ちょっと・・・・」

「全部聞いたわ。あなた、あの事件で頭を強く打って保健室で休んでたって。」

「え?」
天馬は由美子の言葉に一瞬言葉を失うが、亜樹や冥堂たちの仕業と察知した。
「そ、そうなんだ。心配掛けてごめん。」
天馬は心の中で亜樹達に感謝をする。
とりあえず、天馬は由美子と英明に謝ると、自分の部屋に入った。

小さなテレビ、勉強机、ベットに漫画がある本棚。
どこにでもあるような普通の部屋に、天馬は入るとベットにダイブした。
「疲れた〜あ・・・・」
学校を襲撃され、志村と戦い、家族に真実を知られる寸前というハプニングを全て乗り越えた。
恐らく、人生で一番疲れた日であろう。
天馬はそのまま眠りに入ろうとする。その時だった。

「天兄?」

ドアが開き、すでにパジャマに着替えた塔子が入ってきた。
「どうしたの?」
「大丈夫?学校、大変だったんでしょ?」
天馬は塔子を安心させるため、笑顔で頭を撫でながら言う。
「大丈夫。心配しなくていいよ。」
塔子は天馬の笑顔を見ると笑顔になり、天馬の腹に向かって抱きついてきた。
塔子は以前にも引き取られたらしいが、そこで虐待にあい、この家にたまたま引き取られた。
母の由美子がどうしても女の子が欲しいと言い、養子をもらったのである。

「天馬、塔子ちゃん!!夜ごはんできたわよ!!」

天馬は由美子の言葉が聞こえ、塔子と一緒に立ちあがる。
「飯食べたら、ゲームでもしよっか!!」
「うん!!」
天馬は塔子と約束すると、リビングに向かい平和な日所へと戻ったのだった。