ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 和田の暗闇物語 ( No.3 )
- 日時: 2010/06/29 19:06
- 名前: right ◆TVSoYACRC2 (ID: zuIQnuvt)
- 参照: まだ続くよ
第一話
「ねえねえ和田くん和田くん。覚えてる? わたし、私だよう遥だよう。あれ、何で目をそらすの? ねえねえ、ねえってば。和田くん、和田くんってば。聞いてるの? 聞いてるよね。そういえばあたし達幼稚園のころからずっと一緒だったよね。懐かしいなあ。あの頃の和田くんかわいかったよー。そうだ和田くん後で一緒にご飯食べよう。いいでしょ、ねえ和田くん。和田くん和田くん和田くん」
和田くん和田くんうるさいと俺は心の中で呟く。彼女には聞こえるはずもないのに、低く唸るような声で。まるで、蟻を無残に踏み潰すように。
——彼女の名は伊佐里遥というらしい。よくは知らないけど。勝手にメールアドレスを盗まれて、勝手に自分のプロフィールと言うものを送りつけてきたことから彼女の名前だけは覚えた。ほかには自分の身長だとか体重だとか趣味だとか、とりあえず俺にとっては無意味でどうでもいいようなことを送りつけていた。勿論、それは即削除した。メールアドレスも。彼女はその事実に気づいてはいないらしい。ああ、よかった。もし気づかれていたらどうなっていただろう。……想像したら、体中に虫酸が走った。
何というのだろうか、俺はストーカー被害にあっていると部活の友人から知らされた。その事実を知った。そのきっかけとなったのは一昨年の中学二年生の頃からよく、というか毎日四六時中後をつけまわされ待ち伏せされ盗撮盗聴されていた、という話を部活中に彼に話したからである。
『やばいってそれ。ストーカーじゃん。すぐ警察に通報したほうがいいよ。いつか殺されっかもよ? ——何でって、そりゃあそういうもんだろ。殺してまでも一緒にいたいとか、愛しすぎてその人を憎くなって殺すとかさ、よく映画とかであるじゃん』
——とケラケラおどけてふざけるように笑って言っていた。
「警察、ね」
半ば呆れ口調で俺はそう呟いた。
多分、というか絶対警察に通報しても、何も対処してくれないだろう。警察は被害に合わないと中々動いてくれない馬鹿馬鹿しい組織だからな。この間だって、ストーカー被害に合っていた女性が、警察に何を言っても対処してくれず、結局殺されてしまった。
ある時、何ヶ月も娘から連絡がなく、家にも何処にもいないと家族から捜索願が出され、その半年後に見るも無残な姿で発見されたらしい。確か、昔イギリスに現れた残忍な殺人鬼の切り裂きジャックのように、鋭利な刃物で無理矢理生殖器官を抉られ、内臓を滅多切りにされていたととあるニュース番組で言っていた。ああ、怖いねえ最近の日本は。まったく、警察は無能で役立たずな屑共の集まりなんだから。
「えっ!? 何々? 和田くん、何か喋った? ねえ、教えて何喋ったの? ねえ、ねえねえねえねえねえねえ」
俺の声を久しぶりに聞いて興奮したのか、やけに俺が呟いた内容を気にする。いちいち鬱陶しい女だ。
しかしながら耳元でうるさい。その喉を潰してしまおうか。——いや、それはよそう。それよりも良いことを思いついた。
暇つぶしには良い暇つぶしを。
- Re: 和田の暗闇物語 ( No.4 )
- 日時: 2010/06/30 18:55
- 名前: right ◆TVSoYACRC2 (ID: zuIQnuvt)
- 参照: まだ続くよ
だから俺は多分、周りから見れば悪魔の微笑みのような表情をしていると思う。だって、最高な暇つぶしを思いついてしまったからね。そりゃ当然だ。
俺は暇つぶしが大の付くほど好物だ。別にその暇つぶしが食べ物と関連していることはない。いわゆる擬人法というもの。そう、俺の心は俺が思いついた最高の暇つぶしを食べるのが大好きなのさ。
「君のこと」
そっぽに向けていた首を、ゆっくり彼女の方向へ向けてそう言い放った。彼女の栗色の髪から、漆黒の瞳、綺麗に筋が通った小ぶりな鼻、小動物のような小さく膨らんだ桃みたいな色の唇、と上からなぞるように彼女の顔を見つめた。
顔はまあそれなりに良いんだけどねえ……。
その動作に珍しく思ったのか、まるで、見たことの無い動物をまじまじと観察するように俺の顔を見ている。
そして今更俺の言葉にひどく反応したようで、昼休み中の生徒が歩き回り、喋りまくる騒がしい教室の中で、彼女は嬉しさからか、俺の席の前で思い切りジャンプをした。
そのせいで一気に教室にいた全生徒の視線が、俺と飛び跳ねている彼女に集まる。
「きゃああ!! 和田くんが私のこと喋ってくれていたの!? うれしいっ。うれしいよおっ」
あまりに嬉しいのか、頬を赤らめ、瞳には薄っすらと透明な液体が溜まっていた。
やっぱり、そういう反応をするか。