ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 壊れた愛を囁くの。 00001 ( No.8 )
日時: 2010/06/30 17:17
名前: はるた ◆On3a/2Di9o (ID: V32VFdCN)

 何か特別な人間になりたいなとか思っていた。
枠に囚われず、“あたし”でありたかった、はずなのにどうしてあたしはこんな在り来たりな人間になってしまったんだろう。自分の意見もろくに言えない少し引っ込み思案な自分。

「籐花? どうしたの?」
 その声にハッとして、伏せていた顔をあげる。教室内は騒がしく、ああそういえばもう昼休みだっけと自己完結する。
あたしに話しかけてきたのは、中学三年生で初めて同じクラスになった佐々木……七実だったと思う。もう三年になって三ヶ月が経とうとしてるけど、人の名前を顔と一致させることが未だに出来ていなかった。まぁ苗字は合っているとしても、大概名前が分からないのだ。

 四月で、まだ教室全体が慣れ切って無い頃、佐々木さんは「アタシ、籐花ちゃんみたいな子好き!」とか何とか言ってあたしに話しかけてきた。
佐々木さんは分かって無いだろうけど、あたしは知ってる。佐々木さんはあたしが都合良いから仲良くしてるんだってこと。
話の内容は大体、好きな男子の話か嫌いな子の愚痴。それかメイク道具がどうとか、全く興味の無いことばかり。本人には到底言えないけど、あたしは佐々木さんのことが大嫌いだった。

 こうしている間も佐々木さんはベラベラと一人で何かを喋ってる。五時間目数学だよ、あの先生マジでうざくない? そんなことばかり。ああそうだね、と適当に相槌を打っていることに彼女は気づかないのだろうか。
でもあたしは佐々木さんに「仲良くしたくない」なんて言えるほど勇気が無いから、愛想笑いで話を全て受け流す。
 教室中が歪んで見える。全部一緒、全てに飽き飽きする。
もう飽きた、こんな生活に。

 黒板には学級委員の手によって『五時間目、数学自習』と馬鹿みたいにでかく書かれ、佐々木さんはそれを見てこれまた馬鹿みたいに「やった!」とはしゃいでいた。
……ああ、もう良いから消えてくれないかな、視界から。
ふとそんなことを考えてしまったのは、本人には絶対内緒だ。


 * * *