ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 壊れた愛を囁くの。 2章 1話 ( No.24 )
日時: 2010/07/07 22:11
名前: はるた ◆On3a/2Di9o (ID: L0k8GmDX)


 ナイフの切っ先が陽(月?)の光に反射して光る。
声よりも表情が先に驚愕の感情を表した。視覚が聴覚が嗅覚が全ての感覚が、アリスから離れなくなる。
「人間は美味しいわよ白兎。食べる? ほーんの少しで良かったら分けてあげるわよ」
 白兎と呼ばれた白髪の男は、肩をすくめて「遠慮しておこう」と口角をつりあげた。

 ——どうしよう。
背筋に変な汗が流れる。あたしは至って普通の人間だし、当たり前だけど人に殺されそうになったことなんて、無い。
こうしてナイフを向けられてるだけで足がガタガタと震えてくるのが分かる。

 ——そうこうしている内に、アリスが行動を開始した。
ナイフを突き出し、あたしの左胸を狙う。咄嗟に、というか奇跡的にそれを避け「やっやだあああああああああ!」とか悲鳴をあげながら逃げる。敵に背中を見せちゃう失態をおかしながら。

「うわっ逃げたよ白兎追いかけてよ!」
 アリスは余裕のある声でそう言いながら、あたしを追いかけてくる。アリスの履いている、ヒールの高い赤い靴がコツコツと音をたてていた。
——ちょっと待ってよ! 絵本で呼んだ不思議の国のアリスのアリスは、こんな女の子じゃなかった!

 そんなあたしを馬鹿にするように、薔薇は綺麗な花を咲かせていた。

 * * *