ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 黒兎 -Black Rabbit- ( No.4 )
日時: 2010/07/03 01:30
名前: 獏 ◆jOx0pAVPUA (ID: tVOKPYTM)

第一夜 「少年」

窓から差し込む月明かりだけが足元を照らす。
血が滴り、長い廊下には紅い道標が出来上がる。
少年はその血を拭くことも拭うこともせず
高級感の溢れる廊下を進む。

少年の足音だけが不気味に響いていた——

   *

新東京東地区。
そこは真夜中だというのにひどく賑わっていた。
会社帰りのサラリーマン、
キャバクラやホストの若い男女、
夜遊びに夢中の高校生。

この新東京が出来上がってから約三年が経っていた。
今から五年前、大地震によって一度体制の崩れた日本は
その後、驚くスピードで回復した。
今の状況を見れば分かるだろう。
五年前、ビルが崩れ火事が起こり、人々が呻き声を上げていたその場所は
今では高いビルの並ぶ日本一の都市となっていた。

そして、その日本復興と同時にある現象が起こっていた。

それが“能力者”の出現だった。

能力者、
それは普通の人間では持ち得ない力を得た人間のこと。
火を操る者、地面を割るほどの怪力を得た者など、
能力は様々だった。
復興が進むと共に能力者も増加していった。
そして今、
日本は人口の四分の一を能力者が占めていた。

賑わう町に一つの悲鳴が上がる。

「キャァァアァ!!」

女性が指差した先にはビルの壁を走る血だらけの少年とその少年に追われる一人の若い男。
人々が注目する中、少年は男に向けて刀を振るう。
「能力者同士の喧嘩かぁ!?」
「逃げろ!! 巻き込まれるぞ!!」
その声と共に人々はその場から逃げる。
さっきの賑わいは何処へ行ったのだろうか。
町には誰一人人がいなくなっていた。

「これで、思う存分戦えるな」

少年が嬉しそうに笑みを浮かべた。


少年の黒いパーカーのフードが風によって頭から離れる。
輝く銀色の髪、
男を捕らえる紫の瞳、
まだ幼ささえ残る顔立ちの少年は

逃げる男に刀を振るい血を浴びる——