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Re: 黒兎 -Jet Black Rabbit - ( No.14 )
日時: 2010/07/06 17:37
名前: 音暮 ◆KGyV2CsFBI (ID: tVOKPYTM)

第三夜 「黒髪の常識人」

「……何処だよ」

少年の間抜けな声が部屋に響いた。
少年は自分の寝ていたベッドから起き上がり、キョロキョロと辺りを見渡した。
ベッドの脇に取り付けられたカーテン、
よく医者が座っているようなディスク、
そしてあの薬品独特の臭い、
医務室、のようだ。

「此処は“黒兎”の医務室だ」

当たりだ、少年はそう心の中で呟いた。
そして声のした方向へ目を向けた。
そこに立っているのは白衣を着た、眼鏡のいかにも医者のような青年。
黒髪に黒縁眼鏡、整った顔をしている。
「で、俺は何故こんな所にいるのでしょうカ」
最後の言葉が片言になってしまったがそこは気にしないでいただきたい。
「あの金髪馬鹿が連れてきたんだよ、お前のこと」
金髪馬鹿……。
少年はそのワードを元に記憶を探る。
「あーそうだった。俺、あの金髪野郎に気絶させられたんだった」
少年はあの時のことを思い出し軽く苛立つ。
「あの馬鹿は気が短くてな。悪かったな」
黒髪青年が謝るものだから少年は慌ててそれを止めた。
「いや、貴方が悪いわけじゃないんで。謝んないでください」
青年はその言葉に少し微笑みを返した。
(なんかこの人は良い人そうだ)
少年がそんなことを考えていると青年が問いかけた。
「お前、名前は何だ? 俺は“黒兎”の専門医、我妻 汐(アガツマ ウシオ)だ」
そう言って手を伸ばした。
少年はその手を握り答える。
「俺は荒神 暦(アラガミ コヨミ)、金髪馬鹿に拉致られた不運の者です」
二人は握手を交わし、少し笑みを零す。

そんな和みの時間が過ぎている時だった。

足音が近づき扉の前で止まる。
そして次の瞬間
「起きたか!! さっきは悪かったな」
まるで嵐のように金髪男が扉を蹴破り入ってきた。
もちろん蹴破られた扉は壊れ、それと同時に汐の機嫌も悪くなっていった。
「風雅……お前は何度言えば大人しく出来るのか? その耳はただの飾りなのか?」
低い声音でそう言えば、金髪男、風雅は「悪い悪い」と軽く謝った。
汐の機嫌が悪くなるのが目に見て取れる。
「で、お前、名前は? 俺は大峰 風雅(オオミネ フウガ)だ。“黒兎”の社員」
さっき汐に対して自己紹介をしたばかりの暦は面倒そうに再び名乗った。

「暦な。今後ともよろしく。で、早速だが、社長がお前と話したいんだと。ちょっとついて来い」

「ちょっ、待て、おい!!」
無理やり手を引かれ医務室を出る。
「あ、汐さん。お邪魔しました」
「怪我したら此処に来い。手当てしてやるから」
暦は手を振り医務室を後にした。

「お前、汐と俺に対する態度、どっか違くね?」
「俺は常識人が好きなだけだ。初対面の人物を気絶させる奴よりな」
暦は嫌味たらしく風雅にそう言った。
気絶させたのは事実。
風雅は何も言えないようで、ただ俯いていた。

この後、
暦はさらにキャラの濃い人物と会談することとなる。
本人はそれを知る由も無い。