ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 黒兎 -Jet Black Rabbit - ( No.22 )
- 日時: 2010/07/11 19:06
- 名前: 獏 ◆jOx0pAVPUA (ID: tVOKPYTM)
第五夜 「黒兎入社」
「まず暦クン、君には“黒兎”へ入社してもらう」
社長がそう言ってから数秒、沈黙が続いた。
お互い見つめあったまま口を開かない。
その沈黙を破ったのは暦のこの一言だった。
「あー無理無理。俺、こんな危険人物ばかりの会社、入社したくないですよ」
そう言って社長から風雅へと目を移した。
風雅は一瞬気まずそうな顔をして苦笑いを浮かべた。
「でも残念。もう入社届けを出してしまったよ、暦クン」
そしてまた訪れる沈黙タイム。
暦は俯いたまま拳を握り締めている。
(沈めてしまいたい。この会社ごと)
そう考えながらも怒りを抑え、大きく息を吐いた。
「なら、交換条件です。ある人物……俺の“探し物”の情報を俺に与えてくれるのなら、入社します」
「ある人物とは?」
少し間を置き、暦は口元で笑みを作り答えた。
「右腕に、こんな刺青のある人間」
そう言って袖を捲り上げ右腕を見せる。
そこには大きな逆さ十字と揚羽蝶の刺青。
「それは?」
社長や風雅は興味深そうにそれを見つめた。
「……俺が大好き“だった”人から貰った証、ですよ」
暦は薄い笑みを浮かべている。
瞳には悲しみ、憎しみが込められ揺れている。
その瞳を見た社長は
「いいよ。君の探している人物の情報、入ったらすぐにでも流してあげよう」
そう言って手を伸ばした。
「私は瞑。この黒兎の社長だ。よろしく頼むよ、荒神 暦クン」
瞑(メイ)はそう言って笑みを浮かべる。
「よろしくお願いします。瞑さん」
暦は瞑の手を握り返し、同じように笑みを浮かべた。
「じゃぁ、風雅。君には暦クンの保護者として頑張ってもらおうかな」
『はぁ!?』
その言葉に二人して叫ぶ。
「なんで、俺がコイツの面倒見なきゃならねぇんスか!?」
「そうですよ!! どうせならもっと常識人にしてくれっ!!」
その様子に瞑は
「ははは、いいじゃないか。息もピッタリだしね。暦クンの私室は既に準備してある。案内してあげなさい」
そう言って風雅にカードキーを手渡した。
「……分かりましたよ。社長が言うなら仕方ねぇ」
カードキーを受け取り踵を返し社長室を出る。
「暦、早く行くぞ。俺はもう眠ぃ」
暦は瞑に頭を下げてその場を後にした。
「荒神 暦、推定年齢十六歳、東京大震災の際に家族を失い施設に保護されるが
三年前に施設を抜け出し行方不明。その後能力者狩りを行っていたと思われる」
「能力、詳細は不明……か」
瞑は窓から見える高層ビルを眺め、楽しそうな笑みを零した。