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Re: 黒兎 -Jet Black Rabbit - ( No.23 )
日時: 2010/07/12 14:25
名前: 獏 ◆jOx0pAVPUA (ID: tVOKPYTM)

第六夜 「お騒がせ少年少女」

その後私室へと案内された暦は一人ベッドに寝そべり天井を見つめていた。
「……能力者専門殺し屋“黒兎”か」
黒兎への入社と自分の求めている情報の交換条件。
確かに此処で働いていたほうが情報は手に入りやすいだろう。
「てか。俺の私物、なんで既に運ばれてんだろな」
家の住所、知られないように上手く隠してたのに。
そう心の中で呟いた。
「あのチャイナ社長サンにはそんなの関係なしってことか」
眠気に襲われそのまま目を閉じようとした。

「ちょっ、待て!! 止まれ!! 藍草ぁぁあぁ」
「待てって言われて待つ馬鹿は霜雪ぐらいだよっ!!」

若い男女の大声に暦は閉じようとしていた目を開けた。
「んだよ。今十時だぞ……非常識だろ、この声の大きさは」
せっかく眠れそうだったのに、と悪態つきながら起き上がる。
その時だった。
声が近づいてきたかと思えばそのまま扉が破壊され何かが飛び込んでくる。
そして自分のいる場所に一直線に突っ込もうしているのだ。
その何かは人間だということに気付き、暦は自分に迫る危機に唖然としている。
その人物はすぐ目の前で唖然としている暦を見て目を見開く。

「え、ちょっ、止まれない!! 避けてぇぇ!!」

そう叫ぶが時既に遅し。
暦とその人物はそのままベッドから転げ落ち、床に落下する。

ドスン、いや、もっと素晴しい音が響いた。
「いやぁ、ごめんごめん。……って気絶してる!?」
暦に突っ込んだ少女は自分の下で伸びている暦を見て驚く。
「ヤバッ!! 霜雪が追いかけてくるからだよ? 責任取ってね」
「いや、お前が人のモン奪って逃げるのが悪い。お前が責任取れ」
そう言って同じ言い争いを繰り返す少年少女。
少女は薄ピンクの髪に黒曜石のような瞳。
少年は少し紫がかったピンクの髪、それに少女とよく似た瞳。
歳は暦より少し上か同じくらいに見えた。

「喧嘩中悪いけど、人の上に乗ったままってことに気付いてるか?」

暦は痛そうに後頭部を擦りながら起き上がった。
「あっ良かった!! 意識あったよ、霜雪」
「まず退いてやれば、藍草」
よく見れば似た顔立ち。
双子、なのだろうか。
「ごめんね。君、新入り? 見ない顔だね」
藍草(アイグサ)と呼ばれた少女は暦の上から退きそう尋ねた。
「……あぁ。荒神 暦だ」
「暦ね。私は藍草、日向 藍草。此処の社員だよ」
そう言って握手を交わした。
「俺は霜雪。藍草の双子の兄。迷惑掛けて悪かったな」
「いや、大丈夫だ」
(あ、何げ常識人だ)
暦はそう考えながら霜雪(シモユキ)と握手した。
大まかな自己紹介が終わったところでまた新しい足音が近づく。

「何の音だよ一体!! 俺の眠りを妨げるな暦ぃ!!」

そう叫び入ってきたのは風雅だった。
『あ、金髪馬鹿だ』
藍草、霜雪の二人は馬鹿にしたような表情で風雅を指差した。
「ん? なんだ双子か。またお前ら騒ぎ起こしてたのかよ。ソイツ、新入りなんだから悪戯は程々にしろよ」
風雅は寝癖の軽くついた髪を手でぐしゃぐしゃにしながらまた去っていった。
余程眠いのだろう。
大きな欠伸が扉の外から聞こえた。

「てか、ドアさ。どうしてくれんの?」

暦は壊れた扉を哀れむような目で見つめた。