ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 黒兎 -Jet Black Rabbit - ( No.28 )
- 日時: 2010/07/17 09:27
- 名前: 獏 ◆jOx0pAVPUA (ID: og6.uvq4)
第八夜 「企む人間」
先日の襲来で負傷した六名のうち五名は治療が間に合わず死亡。
能力者である真柴 紅逆(マシバ クサカ)のみが生き残るという結果だった。
一人の侵入者に対して五名もの殉職者を出してしまった、この事実は会社に大きなショックを与えた。
しかも侵入者の男の手掛かりは何一つ掴めない。
「暦」
風雅に名を呼ばれ、暦は後ろを振り向いた。
「お前、自分のせいだ、なんて考えてねぇだろうな?」
ついさっき行われた全員参加の集会。
それと同時に殉職者達の見送りも行われた。
黒いスーツに身を包んだ風雅はいつもより真剣な顔つきだった。
「……あの時、俺が捕まってなきゃ、お前等は侵入者に対して手出しが出来た。それは、事実だろ?」
暦は会社内のベンチに腰を下ろし、俯いていた。
「あの状況じゃ、仕方なかったことだよ」
「……なんでお前等は……あの時俺に構わず攻撃しなかったんだよ。俺はまだ入社したばっかの人間。なんで俺の命を優先させたんだよ? 俺を切り捨ててれば、仲間は助かったかも「ストップ」
暦に静止をかけた風雅は、同じベンチの隣に座った。
「確かにお前は入社したばっかのガキだ。だけど、俺は……俺達は既にお前を仲間として認めてる。だから攻撃しなかったんだよ」
その言葉に暦は下唇を強く噛み締めた。
「お前は人に気を遣いすぎなんじゃね? もう少し肩の力抜いてみ」
そう言って暦の頭を掻き回した。
「な、何しやがる」
それを阻止しようと応戦するが風雅は構わず続ける。
「お前はもうこの会社の一員。んで、俺等の仲間」
ピタ、と暦の動きが止まった。
「だから信じろ。俺のことも、藍草や霜雪、社長、社員達のことも」
そう言い残して去っていった。
暦はベンチに座ったまま小さく呟いた。
「こういうの、慣れてねぇから泣きたくなっちまうじゃねぇか」
自分には温かすぎる世界。
今までの血塗れた世界から出られずにいる彼には
それが少し辛くて、そして嬉しかった。
膝を抱えて顔を埋めた。
「金髪馬鹿のくせに……」
*
新東京、北エリア。
高層ビルの並ぶ都市。
その中のとあるビルに一人の青年が降り立った。
「任務終了しましたぁ」
気の抜けるような軽い言い方。
青年はソファーにどっかりと座り込んだ。
「おかえり、ドゥーベ。“彼”はどうだったかい?」
黒髪の男性は社長椅子に座りそう尋ねる。
「んー……。能力者としての自覚も覚醒もなしッスねぇ。もし覚醒してたら俺ヤバかったし。てか、思ったより幼かった」
深い緑の髪を揺らし、青年は飴を口に入れた。
「仲間の死を見れば、なんらかの変化があると思ったが……駄目だったか」
男性は顎に指を当て、考えるような仕草を見せる。
「ありゃ、それなりの封印がしてあるね。誰がしたかなんて知らないけど」
口の中の飴を転がしながら青年はそう言う。
「荒神 暦、君は必ずこちら側になる」
男性の薄い笑み、
それを見て笑みを浮かべる数人の人間達。
「彼が覚醒した時、我々の本当の戦いが始まる」