ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: SBS(スカイ・ブルーシップ) ——空の王者—— ( No.1 )
日時: 2010/07/09 22:14
名前: 空 ◆EcQhESR1RM (ID: BwWmaw9W)

 カランと出入り口のドアベルが鳴った。
 その一瞬で辺りは騒々しくなり耳を塞ぎたくなるほどだ。
 ここ「ブラック・キャッツ」というバーは、お昼時というのに、この客の出入りは尋常ではないくらい激しかった。

「いらっしゃい、お客さん」
 店長のバーナーがカウンターについた今さっき入ってきた客にそう告げた。
 バーナーはその客を見ると息を飲んだ。
 美しい程に輝きを持つ金髪に、まるで深い海を覗き込んでいるかのような青い瞳、小柄であまり背の高くないその少年は、しっかりとバーナーを見つめ返してきた。

 その時、てっぺんだけが無くなっている頭を覆い隠したくなった。バーナーの最近の悩みの種である。
「ビール一杯」
「こんな早くにビールかい? 奥で飲んだくれているおじさん達に混ざって?」
 バーナーはあごで奥の隅を指した。

 そこには、酔いつぶれ寸前の四十代の男達がビールを片手に飲んでいた。
 青い瞳が射るような目つきでおじさん達を見る。
「そんな風にはならないよ。ちょっと落ち着かせたくて飲むだけだ」
 少年が、さらりとした聞き心地のいい声で言った。
 バーナーは、ビールを滑らせ少年がそれをうまくキャッチする。

 少年は、待ちわびていたかのようにビールジョッキを持つと口に運ぶ。
「あんた、田舎もんだろう?」
 少年は動じないまま、ビールを喉の奥に流し込む。
 数秒の沈黙が流れた。
 叩くようにビールジョッキを置くと、手で口を拭った。

「どうしてわかったんだ?」
「日の焼け方が違う。ここの気候は冬でも夏でも年がら年中高温だからまんべんなく焼けるんだが、よそ者は、ここの気候に慣れてないから変に焼けるんだ。あんたの半袖から見える細い腕をみると一目瞭然さ」
 バーナーは、目線を腕に直視する。

 少年は、その目線をたどっていく。
 確かに、半袖Tシャツから少し白い地肌が見え隠れしていて、あとは真っ黒に焼けていた。半袖を境目にしてくっきりと焼けている。
 無表情のまま少年は、グラスをバーナーにさし出す。

「こんな商売やってるとな、観察眼が養われてくるんだ。ここには何し来たんだ?」
 バーナーは得意げになって先を続ける。
「SBSに用がある」
 短く言うとビールが流れてきた。
 今度は、少しずつ口に流し込む。

「SBS……SBSってあのSBSか? 身内にでも誰か選手として出場する奴がいるのか?」
「違う。俺が選手として出るんだ」
 ……バーナーの息が止まった。思い沈黙が流れる。そんな沈黙をもろともせず、ビールを眺めている少年。

「う……そだろ? 選手として出場!? あのSBSにか!?」
「そうだ」
「ひょっとして、お前まさか……っ! 今、物凄い噂になってるたった十六歳という最少年齢でSBSに行けた、金剛崎 柔(こんごうざき じゅう)じゃないのか!?」

 バーナーの声は、バー全体に広がった。
 その声は、奥に座っていたおじさん達の声にも止まり、酔いがふっとんだように席から皆立ち上がっていた。誰しもが返事を来るのを期待している目つきだ。
 そんな目つきを、払い除ける様にビール一口含むと澄ました声で言った。
「そうだと言っている」
 その瞬間、歓声が沸き起こった。