ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: SBS ——空の王者—— ( No.53 )
- 日時: 2010/07/24 14:09
- 名前: 空 ◆EcQhESR1RM (ID: S20ikyRd)
「金剛崎くんのおかげでソラニンを捕まえられたんだし。黒鳥先輩、そんなに怒鳴ってると後で老いてきて脈拍が上がるわよ?」
桜子が、黒鳥とベルトと柔の方へと歩きながら言った。綺麗な長い銀髪と白衣が揺れる。
「ソラニン逮捕のご協力、ありがとね金剛崎くん。私の名前は南桜子。ここの管理局、局長兼司令部司令官を務めているわ」
「ども」
柔は頭を軽く下げる。
「いつも黒鳥先輩とベルト先輩がお世話になってるわね」
「先輩? なんで格が上なのに先輩なんだ?」
柔が桜子にタメ口で聞く。
「こら、金剛崎! SBS管理局の最高責任者に向かって、何という口のきき方を!」
黒鳥がまたもや柔の額にデコピンをくらわそうとした瞬間、桜子の右手が伸びた。しっかりと、黒鳥の手を握る。
桜子が黒鳥に向かって笑みを送ると、視線をそらす黒鳥。
「いいじゃないの、黒鳥先輩。彼はまだ十六歳よ? いい大人がそれくらいでキレてどうするの」
桜子の笑みには、有無を言わさない響きがある。
実際、桜子より黒鳥の方が年齢は下だった。
「私がここに入社した当時、この二人の部下だったの。だけど、私はその先輩二人を置いてどんどん格を上げて行っちゃったって訳。ここのこと、すべて最初に教えてくれたのは大先輩二人だけど、本当に上から物を言うのは堪えるわ」
全然苦にならない様子で、桜子が答えた。
「ふーん」
気のない返事をする柔。
「柔くん。それじゃぁ、先にホテルに案内しましょう。あと三日でSBS開催日ですから、しっかりと体を休ませて貰わないと」
ベルトが柔に言うと、黒鳥に向き直る。
「部長、柔くんのホテルのルームキーを下さい」
「わかった」
黒鳥は、引き出しから三〇三号室の鍵を取り出すと、ベルトに渡した。
「それじゃぁ桜子司令官、部長柔くんをホテルに案内させときます」
ベルトが言い、二人はこの開発部から出て行った。
数分、桜子と黒鳥の間に重い沈黙が漂った。
パタパタと扇子を扇ぎ、気持ちを紛らわしている黒鳥に黒鳥の後ろへ行ってブラインドからリグレン島を見下ろしている桜子。
何か言葉を発さなければいけないという気持ちにはならなかった。二人の間に流れる時間を、二人とも急かさなかった。何か言えとは急かさなかったからだ。
桜子は、大きく深呼吸をすると沈黙を破った。
「あの子、スカイブル諸島ではもう知らない人はいないくらい有名になっちゃったわね。最年少でSBSに行けたことだってあるのに、リグレン市場で柔くんのあの戦いっぷりを見せられちゃ、そりゃチケットも即完売するわ」
「完売したのか」
「こんな熱狂的な試合は初めてよ」
桜子は遠い目をして答えた。黒鳥も、どこに焦点を合わせているのかわからない。
「いろいろ、本当にお世話になったわ黒鳥先輩」
「よせ。お前に言われると虫唾が走る」
「あら、ひどい」
そう言うと、桜子はゆっくりと微笑んだ。それは、まるで一枚の絵のようだ。
「彼、きっといいSBS優勝者になるんじゃない?」
「優勝する限定かよ」