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Re: SBS ——空の王者——  参照300突破! ありがとう! ( No.92 )
日時: 2010/07/22 12:01
名前: 空 ◆EcQhESR1RM (ID: S20ikyRd)

「ここで皆様に少しお話をしたいことがあります。三枚目を見てください」
 桜子の声が重みを増した。
 全員が三枚目をめくる。
「一回、皆さま各自で黙読してください」
 桜子が静かな声で指示をすると、さっきの桜子とは少し違う何かに違和感を感じながら、全員黙読した。
 数分、最初に口を開いたのはロードだった。
「これはどういうことだい?」

「大変じゃないですか……」
 続いて玲も口を出す。
 柔とヨンシュクアは、資料をじっと見つめているだけで動かない。
「ここからは私の部下、黒鳥がお話を致します」
「初めまして。SBS管理局戦闘機開発部、部長の黒鳥です。これからお話致します事はすべて真実です」
 黒鳥は、一回言葉を区切り大きく深呼吸をした。
 柔が、煙草を取り出すと桜子に手でその動作を遮られる。温かい女の体温が柔の手から伝わった。
「応接室での喫煙はおやめ下さい」
 桜子が言うと、柔は煙草をひっこめた。

 それと同時に黒鳥がしゃべりだす。
「このSBSを妨害するものがSBS開催日に現れるという情報を情報部がキャッチしました。所在は、アーロン集団だと思われます」
「その情報は確かなのか、アンタ」
 柔が射るような目つきで尋ねると、噛みしめる様に黒鳥は返事をした。柔は目をつぶる。
 綺麗な顔立ちがまるで彫刻のように動かない。

「アーロン集団は、いつ、いかなる時に襲ってくるか解りません。目的も場所も時間も、もしかしたらSBS出場者は襲われる可能性も十分有り得ます。もしアーロン集団に巡り合わせてしまったら、その時はSBSを放棄して帰ってきてください」
「なんだって!?」
 ロードが目を大きく開かせ茶髪が揺れた。
「それじゃぁ、今年のSBSはもしかしたら優勝者が出ない可能性があるのかい?」

「それも十分あり得ます」
 黒鳥が答えた。
「そんな……」
 玲の黒い瞳が揺らぐ。
 黒鳥は、自分の唇を噛みしめた。両手の指を交差させ組み、それを額に持っていく。
「おい」
 その時、ずっと黙っていたヨンシュクアが口を開いた。ずっと資料から目を離さなかった、狼のような鋭い目つきが全員に向かれる。
「いや……何でもない」

 ヨンシュクアは、再び資料に目を落としそれ以上何も言わなかった。
「今年のSBSは危険が付きまといます。皆さま個人個人が十分注意して下さい。もちろん、SBS側も来場者を厳しく管理し、しっかりといいSBSになるようにバックアップします。いいですか」
 ……誰も返事をしない。
「嫌だな……せっかく大きな大会に出れると思って……」
 玲が小さく呟くと、黒鳥がそちらに目を向ける。
「お気持ちは皆さん同じです、玲さん。安心してください。管理局がしっかりと対処致します」
 温かい視線が玲の瞳を捉える。玲は、気恥かしいのか少し笑った。
 それだけで場の雰囲気が和む。
「それでは失礼致します」
 黒鳥が最後に言葉を放つと、桜子に目を向けた。桜子は静かに頷くと、ではという短い言葉を残して去っていった。


 ……沈黙がこの場を支配する。
 何もしゃべることがない彼らは、ただゆっくりと時間が過ぎていくのを噛みしめていた。
 その時、何も言わなかったヨンシュクアが、あの時に何もないと言っていたが彼が沈黙を破った。

「こんな事件が起きると言う事は、犯人がいるな。アーロン集団と言ったら世界規模のソラニンだ。そんなソラニンが下っ端か、あるいは金で雇われたただの凡人か、それを雇わせないで誰が犯行を行う。きっと犯人はいる」
 違和感に包まれた沈黙がこの場を襲った。
「何が言いたい」
 柔が口を開いた。

「中でも外でも犯人がいる可能性があるということだが」
 刹那。
 柔が物凄いスピードでヨンシュクアの胸座を掴んだ。
「お前、SBS側も含めてこの中に犯人がいるとでも言うのか!」
 柔がヨンシュクアを揺すった。ヨンシュクアの首が揺れるが無表情で柔を見つめる。
「俺は可能性を言ったまでだ。そんなこと言って取り乱しているようじゃ……お前がその原因ではないんじゃないんだろうな」

 柔の頭に血が上った。一瞬にして体が熱くなると、もう頭の中が真っ白になり、気がつくと自分の手を握りグーの形をしていた。その手がゆっくりとヨンシュクアの肩頬を狙う。
 もう何も考えられなかった。
 その時。
「やめろって!」
 大きな力でヨンシュクアと柔が引き離された。

「何考えてるんだ? 金剛崎。今、さっき危ない所をあの二人に助けられたばっかだろ? 二の舞を演じてどうする!」
 ロードだった。
 さっきよりも凄い剣幕で柔とヨンシュクアを怒鳴りつける。
「こんな可愛らしい女の子の居る目の前で!」
 その時、ロードが隣に居る玲をひっぱり腕に収める。
 柔がため息をつく。

「止めた理由が女かよ」
「金剛崎。今、何を言った」
「何も言ってねぇー」
 柔がまた小さいため息をついた。
「っていうか、俺ら全然自己紹介とかもしてねぇーじゃん。なんて言ったって、初めがあんなゲジゲジしたスタートで自己紹介なんて出来る暇、なかったもんな。俺の名前はロード・A・ウィリアム。イギリス人だ」

 ロードがにこやかな笑みを浮かべるが、柔とヨンシュクアは見向きもしない。
 ロードの頬が少し引きつる。
「こっちは、李 玲ちゃん。中国人だ」
 玲の頭を二回ほど軽く叩くと、玲はペコリを頭を下げた。
「初めまして。李 玲です。えっと……貴方達は?」
 玲が恐る恐る尋ねると、沈黙が流れた。
「……金剛崎 柔」
「……ヨンシュクア・アルバート」
 二人とも、聞えるか聞えないかの境目で呟く。

 胸を撫で下ろす玲。この二人と話す時は神経を使うのか、冷や汗が流れた。
「犯人はお前なんじゃないのか」
 ヨンシュクアが話をまだ戻す。
 ロードが歯軋りをした。玲は静かにこの光景から目をそらし震えている。
「何を言っている、お前。何の根拠があってそんなことを言うんだ」
「お前は強いんだろ? SBS優勝者でもないのにソラニンを倒し、しかも最少年齢で最終試験。今年、初めて来て初めてのSBS。それはつまり、みんなが初体験だからこそ犯行がうまくやれる。それに被せて強い」

「お前、そこまで犯人扱いしたいのか」
 柔の目が鋭くなり、声も低くなった。雰囲気が一気に悪くなり、柔の目がメラッと炎を灯したように青い目が光った。
 それを軽々とはじき返すヨンシュクア。
 二人の間に、異様な雰囲気が包みこんだ。獰猛な肉食動物同士が睨みあっているようだ。
「さぁな」
 ヨンシュクアは、この雰囲気をたった一言でぶち壊してしまった。刺々しいオーラが消える。

 ヨンシュクアは、それだけ言うとさっさとドアから出て行ってしまった。