ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 理想郷 オリジナルキャラ募集中 土曜日の朝九時まで! ( No.24 )
- 日時: 2010/07/10 16:56
- 名前: 金平糖 ◆dv3C2P69LE (ID: TQ0p.V5X)
「は……吐きそ……」
やっとイチイのバイクが止まり、降りた途端にマツワは地面に座り込んだ。
「もう!吐く時は妊娠した時だけにしてよね!ほら、座ってないで歩きなさいよ!」
「ちょちょっと……そんな強く引っ張んないでよ」
腕を引っ張られ、マツワは吐きそうな口をハンカチで堪えながら渋々歩いた。
イチイは目の前にある古びた店の扉を開けて、先程よりもずっと明るい声で……
「ライエルおじさん!この町に来てたのって本当だったのね!」
そう言うと、イチイはカウンターに座っていたライエルおじさんと呼ばれた男に無礼にも抱き付いた。
イチイの豊満な胸を顔に押し付けられ、肩に手を掛けられた男はとくに何の抵抗もする事無く、諦めた様にじっとしていた。
周りに居た数人の男達は羨ましそうにその男とイチイを見ていた。
男は顔に押し付けられた胸と、肩に置かれた腕から逃れると、
「君は相変わらずだな……」
心の底から嬉しそうにしているイチイとは反対に、男はとくに何の感情を感じさせずに言った。
「マツワ!この人はライエルおじさん!」
「え……あ、うん。アンタ流石にその人におじさんは失礼だと思うよ」
少しだけ離れた所でマツワはやる気の無い気だるそうな声で答えた。
太ももの上をイチイに座られたライエルは背の高い整った顔をしていた。
見た感じまだ全然おじさんと言う年齢ではなく、長い黒髪と鋭いスカイブルーの目つきから妙に生き生きとした感じの若々しさを感じさせられた。
そして軍人か反政府ゲリラの類か、着ているのは砂色の軍服で、その威圧感のある雰囲気からかなり階級の高い人だと理解させられた。
「この貧乳はマツワ!私の友達!」
イチイはライエルの太ももの上で揺れながらマツワを紹介した。
マツワはその言葉に顔を真っ赤にしてイチイに向かって声を荒げた。
「あ、ア……アンタって本当に……めちゃくちゃ、とっても失礼な奴!これでも気にしてんだから!」
一発位あの女の馬鹿クソでかい胸を引っ叩いてやろうと手を上げた所で、マツワは一人の男に腕を掴まれ止められた。
「やめとけやめとけ、イチイを引っ叩いたりなんかしたらその後自分の顔の面積が二倍になるぞ」
その男も同じ砂色の軍服を着ていたが、ライエルとは打って変わって威圧感はそう言った物は感じなく、年齢もマツワとそこまで変わらない感じであった。
「まぁ、私ライエルおじさんの前ではそんな事しないわ!ジュンイチったら本当に失礼な人!」
「なんだよ、失礼なのはお前だろ!あんな事しやがって!」
どうやら男の名前はジュンイチらしく、イチイに何かをされたのかイチイに対して嫌な感情を持っている様だ。
イチイはライエルの太ももからやっと降りて、ジュンイチに近付きながら言った。
「よく言うわ!こんな絶世の美女にあんな事やこんな事されて、本当は嬉しい癖に!てか、いい加減マツワから手を話しなさいよ。貴方って本当に失礼で変態ね」
やっとこの言葉でジュンイチはずっとマツワの腕を握りっぱなしと気付き、「わ、悪い!」と言いながら急いで手を放した。
「ジュンイチ……さん?アンタの手なんか気持ち悪い……」
マツワは眉間に皺を寄せながら、握られた感触の残る腕を擦った。
その素直な感想にイチイと周りに居た男達は笑った。
ジュンイチに関しては顔を真っ赤にして笑うな畜生!と声を荒げた。
その中、唯一表情一つ変えず、笑っていなかったライエルは小さな声で呟いた。
「イチイ、君は随分と面白い事を言う友達を連れてきたな……」
もちろんイチイはその声を聞き逃す事は無く、
「ライエルおじさん?もしかして私じゃなくてマツワに興味持っちゃったの?」
不安そうな声音を出しながら、イチイは目に涙を浮かべ上目遣いでライエルを見た。
普通の男ならばイチイの上目遣いですぐにイチコロになるのだが、普通の男ではないライエルにはそれは効かなかった。
「あぁ、少し彼女と話をさせて貰おうかな……頼めるかなイチイ?」
「……分かったよ」
イチイは投げやりな歩き方でマツワの方へ行き、目の前に立つや否や仁王立ちになり、
「ライエルおじさんがアンタと話したいって」
イチイのそれはまるで責めるかのような視線で、マツワはぞわりっと背中が冷え、小さく震えながら理由も聞けずにただ頷いた。
急いでマツワはライエルの所へ小走りで行った。
後ろではイチイがジュンイチに八つ当たりをしていた。