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Re: 理想郷 ( No.41 )
日時: 2010/07/18 09:21
名前: 金平糖  ◆dv3C2P69LE (ID: TQ0p.V5X)

紫陽花学園、日本政府の管理するヘル日本エリアの中で最もレベルの高い学園。
小等部から高等部まで有り、そのどれかの部に在学中に一定基準値を大きく超えていれば、小等部か中等部、あるいは高等部卒業の日に理想郷在住権が与えられる。

その紫陽花学園中等部の朝の教室、トウキは教室に入ってきた親友の姿に絶句した。

「ユウイチ!どうしたんだよその怪我!」

慌ててトウキが駆け寄ると、幼稚園の頃からの幼馴染であり親友であるユウイチは笑いながら、

「はは、昨日の夕方に地震があったじゃん。その時に部屋の壁が崩れちゃってさ……参っちゃうよ。でも大した怪我じゃないって医者も言ってたからトウキ静かにしてて、声が怪我に響いて痛い」
「参っちゃうよって……よくそれで済ませられるな……つーか痛いんじゃん!」

と、いつも通りにトウキが突っ込みをいれようとすると「触れるな!」と言われ、トウキは少しだけ凹んだ。
「つーかここまで酷いのによく学校来ようと思ったなー」と呟きながら、ユウイチのギプスで固定された左腕と右足をトウキはまじまじと見つめた。
顔にはガーゼや絆創膏が貼られ、よく見ると指にも包帯が巻かれており、右手に持っている松葉杖を持ち難そうにしていた。

「はよー……」

そこへトウキ後ろから朝なのに疲れきった声が届いた。
すぐにそれがユウイチと同じ幼馴染であり親友であるレンリの声と分かったトウキは、後ろを振り向きながら「おはよー」と言った次の瞬間に本日二度目の絶句をした。
レンリの涼しげな整った顔は、無残にも赤黒いや紫と言うよりも黒と言う方が正しい大きな痣がニ、三個作られ、左眼には眼帯が付けられ、
右頬は他人の顔としか思えないほど腫れ上がり、左足に関してはパンパンに腫れ上がっており、木の棒がしっかりと固定されて、両手にはそれぞれ一本ずつ松葉杖が握られている。

圧倒的に顔のダメージが酷い……酷すぎる!どうして学校に来ようと思えた!とトウキを含み教室にいる全員の人間が心の底から叫んだ。

「レンリ君!どうしたのその顔は!」「わぁぁぁああ!レンリ君の綺麗な顔がぁ!」「つーか足もパンパンに腫れてやがるぞ!」

クラスメイト達がすぐにレンリの周りに集まった。
レンリは「邪魔じゃけぇ!声が怪我に響くから黙るんじゃけ!」とエセ方言でクラスメイト達を蹴散らしながら自分の席に座った。
急いでトウキとユウイチはレンリに駆け寄り、

「レンリどうしたんだよそれ!お前も地震にやられたのか!」

一回、レンリはフッと溜息をして「俺の家は強化素材で作られてるから24時間安心!これ全部姉貴にボコられたんだよ……たく、まだ痛ぇ……」と泣きそうな声で呟いた。
レンリの姉と言えば、二つ上の高等部二年に居るあの美人で胸が凄く大きいで有名な人である。切れ長い目と艶やかな長い黒髪から、ちょっとキツそうな人に見えるが、自分の弟をここまでボコボコにするような人とは到底思えなかった。
トウキは半信半疑気味で、

「姉貴ってあのすっげー美人で胸のでかい?」
「美人かは分からないが胸はかなりでかいな。あの胸に押し付けられて窒息死寸前になった事が何回もある……て、着目点そこ?」

ユウイチは「これは酷い」と言う顔をしながら、

「風呂でも覗いた?」

机をバンッ!と思いっきりレンリは叩き、

「そんな事したら俺の顔の面積が二倍になる!!」
「じゃー何したんだよ」

トウキに聞かれ、レンリは気分を落ち着かせながら

「俺は何にもしてない、昨日家に帰ってくるなり行き成り殴ってきたんだ」
「レンリのお姉さんあんなに綺麗なのに、ゴリラみたいなんだね」

ユウイチのその言葉にレンリは大きく首を振った。

「ゴリラみたいじゃなくて、正確にはあれはゴリラだ!しかもかなり厄介な方のな!あぁ、トウキみたいにナツミちゃんみたいな大人しくて可愛らしい妹が欲しいぜ……」
「いやいやいや……ナツミは内弁慶でさ、家の中ではお前のねーちゃんとまでは行かないがヤバイ」
「ははは、俺は一人っ子だから二人が何だか楽しそうで羨ましいや……」

トウキとレンリはその言葉に目を見開き、声をハモらせながらユウイチに「「楽しくない!」」と叫んだ。

「まったく……」とトウキは呟いた。
実はユウイチとレンリのインパクトが強すぎてトウキ自身でさえも忘れていたが、実はトウキも左手首を骨折、左足を軽い捻挫をしていた。
ヘルにいるとこのような怪我がよくある。

しかし、こんなのも悪くないかもしれない。と、トウキは思った。
こうやって怪我だらけになっても自分達は生きてるわけだし、ヘルには友達や家族、知り合いが沢山居る。
理想郷にさえ行けばこんな風に怪我をする事も無くなるし、毎日を安心して生きられるのだろうけど、
もし俺が理想郷に行ってしまったら、二人とはこんな風に話せないし友達ではなくなっていたかもしれない。


        こんなのも悪くは無い。