ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 理想郷 ( No.54 )
- 日時: 2010/07/30 13:53
- 名前: 金平糖 ◆dv3C2P69LE (ID: FwQAM/tA)
朝、いつもの様に学校に来て、無言で教室に入り、自分の席に座り「ふぅ……」と落ち着くいつもの朝。
鞄の中から筆箱と一時間目の授業の教科書とノートを取り出し、ついでに携帯電話を取り出した。
携帯電話を開き、隣のクラスに居るユカリと適当にメールを始めた(ユカリは喋るのも、人の顔も見るのも苦手だから会話は大体メール)。
『おはようユカリ、今、相談OK?』
返事は数秒も待たない内に来て、
『良い。早速本題入れ』
『私、どこの反政府組織に入ろうか迷ってるんだ』
何故だかは分からないが、私はユカリの素っ気無い所が安心する。
何かあった時、私はユカリの素っ気無い態度と喋り方でいつも通りの自分に戻る事が出来る。
すぐに来た返事はやはりいつもの素っ気無いメールで、
『今皆そんな感じ。他の組織に入る人と新しい組織作る人が居る。迷ってる人居る』
『そっか、ありがと』と返信すると、ちょうどそこでチャイムが鳴り「おーい、全員席着けー」と言いながら先生が教室に入ってきた。
先生がいつものように教壇に立ち、いつものように出席を取るかと思ったら今日はいつもと少しだけ違い「あー……知ってる人が居るかもしれんが……」と何か話があるようだ。
いつもの様に聞き流そうと思ったら、先生の口から衝撃的な言葉が出てきた。
「加藤イチイが自主退学した」
教室中から驚きの声が上がり、もちろん私も驚きの声を上げた。
先生は何事も無かったかのように出席簿を手に取り「静ーかーにー!ここに居る皆はそうならないよう、しっかり勉強に取り組むように……じゃー出席取るぞー」といつもの調子に戻った。
イチイの突然すぎる退学に私は唖然とした。
そのせいで「伊原!」と出席で呼ばれて「ひゃい」とみっともない返事しか出なかった。
「何であの女はいつもいつも予想出来ない事ばかりするのかしら……」
朝のホームルームが終わり、やっと落ち着いた私からは苛立ちが湧き出る。
私は教科書とノート、筆箱を鞄に詰め込み、その鞄を背負った。
あの女には昔から振り回されてた!それなのに突然退学?ふざけんな!まだ私仕返しをしてない!
退学するんですかそうですか、ならば退学祝い引っ叩いてやる!
「あれ、伊原さんどしたの?」
クラメイトに話しかけられて「腹痛で早退!」とだけ私は教室を出ようとした時「あ、あのー」と中等部の制服を着た男子生徒に私は話しかけられた。
身長は私とちょうど同じ位で、どこにでも居る普通の男子生徒と言う印象だった。
「あ?」
苛立ちを隠せぬ私はついつい眉間に皺を寄せながら言ってしまった。
男子生徒は小さくなりながら何とか絞り出した声で、
「その……か、加藤イチイさんって居ますか!」
何でオメェ?イチイのファンかぁ?あぁぁん?とは言わずに、ユカリみたいに簡単質素に、
「イチイ退学した、もう居ない」
「えぇっー!?」
「うるさっ」
男子生徒は廊下に座り込み、地面に手を突いて「そんな……レンリの姉ちゃんまで……」と嘆きながら呟いた。
道行く人達が何だ何だとこちらを見る。
「何か私まで変な目で見られるんだけど……何なのよアンタ、イチイに何の用があって来たの?」
眉間の皺が出来てゆくのを感じた。
穏やかに、穏やかにと自分に言い聞かせても穏やかにはなれそうにも無く、機嫌はどんどん悪くなってきた。
「その……加藤イチイさんの弟のレンリが突然自主退学して転校って聞いて……何事かと思って……」
「弟までぇっ!?有り得ないっ!マジあの女有り得ない!」
私は地団駄を一回踏み、ズカズカと廊下を歩き始めた。
「ちょ、ちょちょっちょっと……どこへ?」
「学校サボってイチイの家に行くの!」
廊下を走ろうと地面を蹴ろうとした時「待って!俺も……俺も行くぅ!」と言う叫び声が後ろから響き、思わず足を踏み外して転びかけてしまった。
「はぁ!?何言ってんのお前?」
「お前じゃないです!俺には梶原トウキって言う名前が有ります!とにかく、俺もレンリの家に行きます!」
「ふっざけんなだし!」
「ふざけてません!本気です!」
かくして、私と梶原は二人で学校をサボってイチイの家に行く事になった。