ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 理想郷 ( No.61 )
- 日時: 2010/07/25 12:00
- 名前: 金平糖 ◆dv3C2P69LE (ID: FwQAM/tA)
レンリの家の前で俺は何故か伊原さんと話し合いをしている。
「アンタがインターホン鳴らしなさいよ……男でしょ!」
「だ、男女差別です!ここは年功序列で考えて伊原さんが押して下さい!」
こんなくだらない会話で15分。
ついに伊原さんは呆れたような口調で「二人でインターホンを押すわよ」と呟いた。
正直二人でインターホンを押す必要性はどこにも無かったが、今この状況で解決策はこれしかないと判断した俺は黙って頷いた。
「せーので押すわよ……せー……」
「あらあら、マツワちゃんとトウキ君じゃない!何?遊びに来てくれたの?」
の、と言う声はレンリのお母さんの声で掻き消された。
原付バイクに乗ったレンリのお母さんことマサコさんは、40直前なのを感じさせない美貌を満面の笑顔にしながら、こちらへ近づいて来た。
「イチイのお母さん!お久しぶりです!」
伊原さんは急いでマサコさんに頭を下げた。
俺もつられて、急いでお辞儀をした。
「そんなに畏まらなくて良いのよー、私は子供は礼儀知らずが丁度良いって考えてるから」
ニコニコと笑いながらマサコさんは「はい、あげる」と俺と伊原さんに飴玉をくれた。
マサコさんは本当に優しいなーと思いながら俺はお礼を言い、早速その飴玉を口の中に放り込んだ。
伊原さんはお礼を言いながらその飴玉を制服のポケットに入れた。
「ところで二人共、何の用?
今、レンリは枕木中学校に行ってるし、イチイはお引越しの準備中よ」
「「えぇっ!?」」
俺と伊原さんは同時に驚きの声を上げた。
「レンリは枕木中学校に転校させたの、イチイは明日理想郷に行くからお部屋で荷作りしてるわ」
あの頭の良い天才のレンリが馬鹿と不良の枕木中学に!?
納得できん……と俺はついつい呟いてしまった。
「イチイが理想郷に行くってどう言う事ですか?イチイってあんまり頭良くない気がするんですけど……」
伊原さんの顔にも納得行かないという表情が滲み出ていた。
「うふふ。そうねイチイは私に似て頭が悪いわよ。
あの子ね、結婚するのよ……本当にマセた子なんだから!」
結婚という言葉を聞いて、俺は驚くすら出来ずただ唖然として口を開けた。
「それじゃ、私はイチイの手伝いをしなきゃいけないからこれで……
二人共、早く家に帰るのよ。なんか今日の午後に反政府組織の作戦が有るらしいから」
政子さんは原付バイクを車庫にしまい、家の中へ入って行ってしまった。
「……呆れたわ、本当に何もかも呆れた。
イチイもそんな奴だったわね……もう何も信じたくなくなるわ……
じゃあね梶原。アンタも早く家に帰りなよ」
伊原さんはそう言って早歩きで去っていった。
立ち止まったまま俺は「……本当に納得いかねーよ」と呟いた。
俺は真っ直ぐと立って空を見た。
レンリの突然の自主退学、つまり自分からの退学、それが何故なのか、しかもよりによって何故行き先が枕木中学なのか……
レンリ程に頭が良ければ、紫陽花学園に居れば理想郷に……何故そんな勿体無い事を。
「馬鹿だから、分かんねーや」
俺は日常を守ろう。
適当に学校に行って、適当に反政府活動やって、適当に天災か老死で死のう。
ただ馬鹿でも分かる事は、普通でいたいなら、普通が好きなら、非日常よりも日常を守るという事だ。
それが俺の日常だ。
空は濁った灰色をしていた。