ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 理想郷 ( No.65 )
日時: 2010/07/27 13:33
名前: 金平糖  ◆dv3C2P69LE (ID: FwQAM/tA)

目的地に着いて最初にジュンイチが発した言葉は「うわ、一丁前に総理大臣高級車乗ってやがる」だった。
ロンウーは首をグリングリン動かしながら「えーえーここからじゃ戦車が邪魔で見えないよー」と不満気に言った。
戦車の中は非常に和やかな雰囲気に包まれていたが、別の戦車からのライエルの声によってそれは消えた。

「我々は見ての通り反政府組織である。
 しかし、こちらの要求を聞いてくれるのであれば手荒な真似はしない。
 我々の要求は一つ、遊楽都市設計中止だ」

流暢な日本語と意志の強い声だったので、ついついジュンイチとロンウーは小学生みたいに「かっくぃー」と声を漏らした。
しかし政府側は要求を聞き入れてくれる筈も無く、

「だが断る、そんなに戦車を見せ付けてよく言う。
 今すぐ撤退しろ、さもなくば容赦しない」

ジュンイチとロンウーはブーブーと「お前なんかお呼びじゃないんだよ、総理出せ総理」とブー垂れた。
ライエルもそれを黙って従う事は無く、

「撤退はしない。
 要求を呑まないのならこちらも容赦はしない」

ライエルのその言葉で、二人は顔を見合わせ口の端を吊り上げた。

「操縦に専念するから、後の事は任せたぞ」

ジュンイチがそう言うとロンウー「任せときな」と気合の入った声で言う。
無線から、オズボーンが「全員まだ攻撃はするな、今は相手の動きを封じ込めろ」と命令をした。

「了解!」

他の戦車も動いているので、ぶつからぬよう気を付けながら命令の通りにジュンイチは戦車を動かし始めた。

「こちらから攻撃はするな、あちらが攻撃をしてきてからだ」

無線からの声に、分かってるよそんなのと思っても口には出さず、心の中でジュンイチはそれを呟く。
しかし先程から向こうも攻撃を仕掛けて来ないのが問題だ。
向こうもこちらが攻撃を仕掛けるまで何もしないつもりなのだろう。

こちら側の戦車に囲まれた政府軍の戦車は、護るように総理大臣の乗っている高級車を囲んでいる。

「さて、どうするか……君達はどうかね?」

無線からのオズボーンの声は困っているというよりも、むしろこの状況を楽しんでいるのが分かった。

「知るよしもな……」

ロンウーが言い終わる前に、戦車に衝撃が走った。

「ぐぇっ!」

その衝撃でジュンイチはうっかり自分の舌を噛んでしまった。
しかし、痛がる事をすらせずにジュンイチは声を荒げながら言った。

「へーふぐんだ!ほーぎゃきしちゃっちゃ!」
「何を言ってるかわかんないよ。でも、大体何言ってるか予想はつくけどね。
 政府軍だ!攻撃してきた!……だろ?」
「そうだそうだ!それで正解だ!じゃぁ戦車を降りるぞ!」

そう言ってジュンイチはロンウーの腕を掴み、上の扉を開ける。
ロンウーは訳が分からず何で?何で?と何回も聞く。
それをジュンイチは無視し急いで戦車から出る。
戦車から出た二人は車体から滑り落ち地面に叩き付けられる。

その叩き付けられた瞬間、

「ドォォォォオオオオン!!!!」

と、つい先程まで二人の乗っていた戦車は派手な音を立てて爆発をした。

Re: 理想郷 ( No.66 )
日時: 2010/07/28 21:38
名前: 金平糖  ◆dv3C2P69LE (ID: FwQAM/tA)

「うわああぁぁぁあああ!」

ロンウーは予想外の事にビックリして悲鳴を上げる。
急いでジュンイチは立ち上がり、先程攻撃をしてきた戦車を見た。

「攻撃した奴の腕が凄いのか、攻撃に使ってきた兵器が凄いのかは分からないが、とにかく相手は凄い」

ジュンイチがその声を上げている途中にも、他の者達は予想外な事態に何とか冷静を取り繕って反撃を始めていた。
無線から「聞こえるか?怪我は無いか?」と声が聞こえたので、ジュンイチは「二人共まだ無傷です」と答えた後に無線を切り、

「随分と凄い事やってくれるじゃねーか」

先程の戦車にジュンイチは一回だけ微笑み掛け、その次に睨みつけた後、ポケットを弄り始めたかと思うとある物を取り出し、

「イッツアスタートオブザショータイム!」

と、自分でも笑ってしまうような下手糞な英語で叫び、それのピンをジュンイチは口で抜き、戦車目掛けて思いっきり投げ飛ばした。

「ドゴオオオォォォオオオオン!!」

それはすぐに爆発を起こし、辺りに先程よりも大きな爆音を轟かせる。
ジュンイチが投げたのは手榴弾だった。
手榴弾の威力は、戦車一台を使い物にならない物にするのに十分すぎる威力だった。
使い物にならなくなった政府軍の戦車を見てジュンイチは「よし!」と、ガッツポーズになる。
その喜びも束の間、0.1秒の単位でジュンイチへの銃弾が撃たれる。

「ジュンイチ危ない!」

ロンウーはジュンイチを押し倒し、すぐに銃を構える。
間一髪で銃弾はジュンイチの頭部を外し、代わりに彼の耳を吹き飛ばした。
耳のあった場所からは赤黒い血が滲み出す。

「痛っつぅ……」

ジュンイチの口から苦痛の声が漏れる、それでも痛みを堪えながら左手でそれを押さえ、よろめきながら立ち上がり右手で銃を構える。
立ち上がった途端に鋭い痛みが頭を貫き、目の前がぐらぐらと揺れる。

俺はここで倒れる訳にはいかないんだよ……

右足と左足をしっかりと地面に固定し、ジュンイチは目の前を睨みつける。
睨み付けた先、先程の戦車の残骸の上から片手に銃を持った青年がジュンイチを見下ろす。

「相変わらずジュンイチ君は英語の発音が酷いですね」

青年の持っている銃からはゆらゆらと灰色の煙が立ち上っている。
ジュンイチの顔は焦りや恐怖、喜びに怒り、悲しみ、その全てを入り混じらせていた。
そして半信半疑気味に、

「間宮……なのか?」

薄れ行く意識の中、ジュンイチは昔を思い出し始める。

Re: 理想郷 ( No.67 )
日時: 2010/08/01 11:07
名前: 金平糖  ◆dv3C2P69LE (ID: FwQAM/tA)

それは七年前の事だった。
如月ジュンイチはまだ小学校六年生で、西暦は2032年だった。
テレビは毎日理想郷の事で持ち切りだった。
理想郷完成までのカウントダウンをしている番組もあった。
その時は誰もが理想郷へ行けると思い込んで、みんな理想郷の完成を心待ちにしていた。

ジュンイチもその一人だった。
彼の祖父は田舎の村の殆どの領土を所有する領主で、父は酒の製造会社の社長。
そのせいで彼は周囲から羨望や期待を受けて育った。
それと一緒に、彼を取り巻く他の者達はジュンイチにある程度の気を使った。

「木乃先生ーさよーならー!」
「如月ー!廊下は走るなー!」

しかしながら、当の本人であるジュンイチは自分の祖父達については無自覚の至って普通の少年で、彼を取り巻くクラスメイトや教師達は気を使うという事は小学校六年間、全く持ってなかった。



職員室にて、新人教師の遠野と体育教師でありジュンイチのクラスの担任である木乃はお茶を飲みながらのんびりと会話をしている。

「ジュンイチ君、至って普通の問題の無い子で本当に良かったですねぇ……」
「まったくですな……しかし、問題のある生徒はクラスに絶対に一人は居るんですよ」

それは誰ですか?と、遠野が聞くと、木乃は手元にあったお茶を一気飲みし、

「間宮ネネですよ」
「ネネちゃん?可愛い名前ですね」
「いや、そいつは男だ」

遠野はビックリして手元にあるお茶をスカートの上に零してしまう。
急いでハンカチを取り出し、焦りの声を上げながら拭き始める。

「わっわ、大変大変……と思いましたけど、スカート自体が焦げ茶なので余り心配ないですね!それでは木乃先生続きをどうぞ」

木乃はずっこける仕草をした後、コホンッと咳をする仕草もして仕切り直す。

「その間宮、他の皆より少しだけ背が低い小柄な子なんだ。
 それだけならよくある事なんだが、奴は丁寧すぎると言うかなんと言うか……まぁ、大人しい礼儀の正しい子なんですがね……」

遠野は頭の上に疑問符を浮かべ、それに何の問題が?という顔をする。

「間宮自体には問題は殆ど無いと言う方が正しいかもしれんな、正確には彼を取り巻く状況に問題が有ると言うべきか。
 あぁ言うタイプの子は弄られ易いんですよ」
「弄り……ですか?」



それはガキ大将倒せたら格好良くね?と言う言葉から始まった。

「おいジャイアント・モハメドアリ!苛めを止めろー!」

学校帰り、ジュンイチはガキ大将・ツヨシ(通称ジャイアント・モハメドアリ)を倒す為に公園まで走ってやって来た。
ジュンイチが叫んだ後、三秒間の沈黙が流れ、

「ジュンイチかよー、何だよお前ー?」

沈黙を破るようにツヨシが呆れたような様子で言ってきたので、ジュンイチは「飽きるのはお前だ!」と言い返す。
ツヨシと、その取り巻き達に囲まれている間宮は給食着袋に顔を半分埋めながら、そんな彼を訝しそうに見つめる。

「良いぜ、相手してやるよ!」
「よっしゃぁ!」

指をポキポキと鳴らしながらツヨシがジュンイチに近づく。
ジュンイチはランドセルを地面に放り投げ、祖父直伝の柔道の構えをする。
が、

「うおりゃああああぁぁぁああああ!!」
「はぶぉっ!」

走りかかって来たツヨシに顔面を殴られ、ジュンイチは鼻血を吹き出しながら地面に倒れこむ。
あっさりと勝負は終わり、勝者のツヨシは両腕を空高くに掲げる。

ジュンイチは知った。

自分は弱者である事と、小学生の喧嘩に柔道も何も関係なく、ただ重要なのはデカイ体格のみ。
ガシッボカッ……ジュンイチは死んだ。柔道(笑)
などと考えていると、

「ツヨシ!何してるの!」

突然の怒声が夕方の公園に響く。
それはツヨシの母の声で、次にパタパタとジュンイチに走り寄る足音が響く。
急いでジュンイチが起き上がって見てみると、ツヨシの母の顔は真っ青で、体はぶるぶると大きく震えている。
何事かと話し掛けようとすると、唐突にツヨシの母ちゃんはツヨシの顔面を殴り付け、

「ツヨシがごめんなさいねジュンイチ君……怪我はない?良かった、ただの鼻血だけね……ほら!ジュンイチ君に謝りなさいツヨシ!」

ツヨシが泣きながら「ごめんなさい……」とジュンイチに謝る。
急いでジュンイチは弁解し始めた。

「ツヨシの母ちゃんごめんなさい、悪いのは俺なんです!俺がツヨシに喧嘩売ったんです!」

悪いのが自分だというのに向こうに謝られるのは気分が悪かった、だから急いでツヨシの母にジュンイチは言うと、
ツヨシの母は首を横に振りながら、

「良いのよジュンイチ君、そんなの関係ないから。ツヨシがジュンイチ君を殴った……それを謝ってるんだから……」

ジュンイチにはその意味が半分しか理解できなかった。

自分の息子が領主の孫を殴った……それは如何なる理由があろうといけない事である。
もしも彼が祖父の事を自覚し、常日頃から我侭放題の子だったらすぐに理解しただろう。
だが彼は祖父の事は無自覚で、どこにでも居る普通の悪ガキでしかない。

ツヨシの母に引っ張られる様にツヨシは公園から立ち去り、その取り巻き達もツヨシが居なくなったので去って行った。
公園に残っているのはジュンイチと、先程まで弄りを受けていた間宮だけだった。