ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 理想郷 ( No.76 )
- 日時: 2010/08/01 14:55
- 名前: 金平糖 ◆dv3C2P69LE (ID: FwQAM/tA)
拾い子だからじゃないの?
祖母が思わず口走った言葉に、ジュンイチも祖父達も凍りつく。
父が慌てて祖母を言い咎めるが、祖母に言っている事は間違いじゃないどころかむしろ正解であった。
『そちらは養子の息子さんで?』
女性の言っている事は間違いで、ジュンイチは正確には拾い子だった。
そうだ……そう言えばそうだった。
余りにも普通で、幸せだったんでうっかり忘れてた。
俺は建物の瓦礫の上に置かれてた赤ん坊で、名前はオデコに大きく『純一』ってマジックペンで書かれてて、たまたま通り掛った不妊症に悩む余り鬱病になりかけた母に拾われた捨て子だった。
ジュンイチは、気付かれない程度に小さく笑った。
祖母を除いて、父も母も祖父もジュンイチを受け入れた。
しかし、何があろうと捨て子は捨て子のままらしく、ジュンイチ一人だけヘルに残る事となった。
時々、母と祖父が会いに来てくれる事はあったが、それは本当に時々で、ジュンイチは家に一人で居るのがが当たり前となっていた。
祖父はもう地主では無くなり、ジュンイチは地主の孫では無くなった。
けれど、元々ジュンイチは普通の子と何ら変わり無かったのもあって、彼は何も変わった事は無かった。
誰が流したのか、ジュンイチが拾い子と言う話はすぐに色んな人に知れ渡ったが、からかわれたり噂される事は無く、むしろ皆同情をした。
学校でもそれは同じで、ジュンイチは幸せなままだった。
しかし、例外は絶対に居て、
「オイ間宮!何だよこのはした金!」
「だって……昨日ので全部で……!」
ツヨシの間宮への弄りは再開して、弄りはすぐに苛めへと変わった。
親友が苛められてるのを無視なんぞ出来る筈も無く、すぐジュンイチは止めに入った。
「ツヨシ、お前いい加減にしろよ!」
ツヨシは一年前と同じ様に、呆れた顔で「いい加減にするのはオメェだろーが」と言う。
その次の瞬間、ジュンイチはまた一年前と同じ様にツヨシに顔面を殴られる。
当たり前のように痛く、鼻血が沢山出て来る。
鼻血が布の上を広がって、制服を赤黒く染めていく、口の中に鉄の味が広がっていき、真っ白な歯を真っ赤にしていく。
「今までお前のせいで俺がどんだけ我慢したと思ってんだよ!慰謝料払えよ!」
次にジュンイチの腹の上にツヨシの丸太の様に太い足が乗る、
「っぐりゃぅ!」
ツヨシの全体重が圧し掛かり、ジュンイチの口から変な呻き声が出てきて、朝ご飯に食べた物全てを吐き出しそうになる。
「慰謝料!金くれたら止めてやるよ!」
ジュンイチは外に出掛けているゲロを飲み込み、やっとの事で声を絞り出す。
「お前、なんか、に、やる金、一円も、ねぇ……」
「この期に及んでまだ俺に口答えすんかよ!この愚図!」
ペッとジュンイチの顔に唾をかけた後、ツヨシは力一杯に彼の腹を蹴り上げる。
「ジュンイチ君!」
間宮の涙混じりの声が遠く小さく感じる。
ジュンイチは食べた物を全て吐き出す。
嗚咽を繰り返して息が上手く出来なくなり、余計苦しくなる。
少ししたら何とか喋れるようになったジュンイチは、馬鹿みたいな反抗を繰り返してツヨシを煽り始めた。
「殴れよ蹴れよ!俺に暴力振り続けろよ!何されようとお前なんかに一円もやんねぇし!」
問答無用でツヨシはジュンイチに殴る蹴るを始める。
痛みと吐き気により彼の視界はぐるぐると回っている、間宮の止めてよ、と言う声はツヨシにもジュンイチにも届かなかった。
どれ位やられ続けたのだろうか、ジュンイチはボロ雑巾の様になって、辛うじて意識がまだ残っている状態で、
ツヨシは息をはぁはぁと言わせ、肩を大きく上下している、ツヨシの両手は真っ赤だった。
間宮は涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしながらジュンイチの名前を呼んでいる。
最後の抵抗でジュンイチはツヨシに「もう……終わりかよ……」と消え入りそうな小さな、ゾンビの様な声で言った。
- Re: 理想郷 ( No.77 )
- 日時: 2010/08/01 14:58
- 名前: 金平糖 ◆dv3C2P69LE (ID: FwQAM/tA)
「如月……やるじゃん……俺が悪かったよ……」
その声は届いたらしく、ツヨシはそう言い残して去って行った。
「はは……俺、ツヨシに謝らせたし……」
その日から間宮はツヨシに苛められる事は無くなった。
ジュンイチはツヨシに苛められないどころか、むしろツヨシと仲良くなっていた。
「如月ー、おんめぇーどんだけ丈夫なんだよ」
「俺は丈夫なのが取り柄なんだよ!」
そんな他愛無い会話をするのが当たり前となっていて、自然とツヨシも暴力沙汰を起こす事が少なくなっていた。
けれども残念な事に、ツヨシが苛めをやらなくなったからと言って全ての人間が苛めを止めるはずもなく、
「間宮さー、お前本当にウッゼェ!何かお前調子乗ってね?」
今度はツヨシの取り巻きだった奴等が苛めを始めていた。
「一難去って、また一難」
ジュンイチがそう呟いた後、ツヨシは「ぶっちゃけタフだし……一応言っとくけど、アイツ等とは関わんない方が良いぜ」と言うので、ジュンイチは何で?と聞くと、
「あの真ん中の奴の親父がここらの新しい地主になったんだ、それで調子乗ってやがる」
「えぇ!?」
ツヨシは「これだから田舎の村ってのは嫌だぜ……」と言って立ち去って行く。
地主の怒りに触れたら最悪追い出されるのをジュンイチは誰よりもよく知っている。
しかし目の前で苛めが行われてるのを……
「「あっ、」」
迷っているジュンイチと苛められている間宮の目が合う。
思わずジュンイチは急いで目を逸らし、その場を走り去ってしまった。
ごめん、本当にごめん……ジュンイチは心の中で何回も謝った。
その時ジュンイチはまだ13歳だった。
13歳のジュンイチは村を追い出されたらどうしたら良いかわかる筈もなく、目の前で行われている苛めを無視するしかなかった。
自然に二人は仲良く一緒に居る事が無くなった。
中学二年、三年で二人のクラスは別々だった、間宮はその間もずっと苛めを受けていた。
高校は全く別の場所を行った。
高校卒業後ジュンイチは反政府組織に入った。
そして13歳の時から6年間、ジュンイチの心の底には僅かだが間宮の事が残っている。
「何でお前が政府軍に……!」
四年ぶりの再開をした時、あの弱くて女々しかった間宮は政府軍の狙撃兵となっていた。
間宮は流れ弾をするりっといとも簡単に避けた後、
「私は見ての通り強くなりました。誰も、私なんかを助けてくれないからです。
だから、強くなるしかなかったのです」
間宮のどこかじっとりとした黒い目がジュンイチを見つめる。
ジュンイチはその目を逸らす事が出来なかった。
「あの日から、ジュンイチ君がついに私を見捨てた日から、私は血の滲む様な努力をしました。
でも私は、生まれ付き筋肉とか体力の作りにくい体質で、普通の人の何倍も苦労と努力をしました。
自衛隊に入隊後は、射撃訓練によって肉刺が沢山出来て、手相が変わってしまいました」
間宮が銃を構える。