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Re: abnormal children 参照がありえない数に…。 ( No.99 )
日時: 2011/01/18 18:46
名前: スサノオ (ID: 4yRqeNGS)


とある神聖な行事の最中のことだった。
それまでブルーを保っていた警告色がオレンジを飛び越していきなりレッドに変わった。真っ先に反応したのは入り口付近に座っていた天馬印 紫その人は、いち早く危機を察知した者のうちの一人だった。

「……っ!!行くぞ!」
その肩に掴まる者が数名。
そのほとんどが古くからここに所属する古参のメンバーで最近入ってきた者、こういう経験の無いものは訳が分からず慌てている。
「慌てるなっ!お前らは警備を固めろっ!」
紫が叱咤する。
「ですが……。しかし……」
「こういった経験の無いお前らに来られても足手まといだッ」
そう告げた紫とその肩に掴まる者たちが突如として消えた。

空間制御の応用。

還身。

そして次の瞬間、紫たちの体は優の部屋の前にあった。
男が寝ている優に触れようとするその瞬間のことであった。
男の耳に、いや脳内に奇怪な音が鳴り響いた。
途端男は優に触れようとする体勢のまま動かなくなってしまった。

「…………っぁ……」

今の男にはこれくらいの声を出すことしか出来なかった。

男が自分の状況に驚愕していると紫を先頭とする団の後方から声を上げる者があった。

「稔のねー、音を聴くとー、体がカチカチになっちゃうんだよねー。ちなみにー、今まで動けたのは紫さんくらいだったかなー?」
稔はボブカットの髪を揺らしながら、前に出てきた。
稔はジャージにパーカと言ういたってシンプルな格好だったが、顔とおでこ、計2箇所に掛けられた眼鏡が異様だった。


紫は動けなくなっている男を優のベットから引き離した。
「さて。捕まえたし、なんでレジスタンスのメンバーでもないあの子を狙ったのか、何をしようとしたのか向こうの色々と道具のある部屋に行って洗いざらい、すっきり全部話してもらおうか」

「断る」

男が口を開いたと同時に、それまで男を固定する役割を担っていたはずの稔の体がグラッと揺らめき床に崩れ落ちた。

それまで余裕の笑みすら浮かべていた仲間の顔が一瞬で凍りつく。
それはかつて紫が稔の術を破ったときと同じ光景だったから。
「逆接かっ!」

敵の体を動けなくする。
聞くだけなら便利な技だ。
しかしそんな便利すぎる技が代償なしで行使されることなどありえないのだ。その代償は術者の制御が緩慢になること。
だがこれは内面の話なので通常ならば関係ない。だからこの術は代償は軽く便利なまさに便利な技、そういう構成だった。
紫はそれを読んだ。紫は流れてくる音楽の根源を見抜き、ルーツをたどることによって術者の内側を圧迫し、気絶させた。
それは魔術、科学に限らずどんな術でもそうなのだが術の逆算、しかもそこから逆接は事実上、出来ない。だから理論上は逆接は机上の空論ということで連盟の会議でも話が付いたはずだった。
だが紫とこの男はそれをやり遂げた。これはどういうことなのか、術者達ならばよく分かっていた。

だからこそこの男は紫にしか相手が出来ないとわかった。
だが男はこの状況を不利と読んだらしく身を翻し逃げた。
紫並みの速さで逃げる男を仲間達は捕まえられなかった。
唯一男に敵うはずの紫はどうしたのか放心状態で固まっていた。
だがしばらくしてかぶりを振ると、還身で追跡するために姿を消した。




男を見つけられず悔しそうな表情をして紫が戻ってきたのはそれから小一時間が経ったころだった。



男を取り逃がしたものの、あれだけの実力者が襲撃してきたにも関わらず損傷なく追い返せた事で安心しきっていたメンバー達。

今の彼らは忘れていた。危機はいつも安心による心の緩慢さに付け込んで這いよって来る。
あるいはいつもの彼らでも気づかなかったかもしれない微妙なズレを。

この時にはもう手遅れだったことを後に彼らは知ることになる。