ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

1st.:0 ( No.1 )
日時: 2010/07/12 18:44
名前: 時雨 ◆5IxW6Su6n2 (ID: 6XpHmYt9)

「なあ、お前さ」
僕に話しかけたのは誰か、なんて。
そんな事、最初から分かっている。彼しかいないんだ。「僕」自身と話せる者は。


「……何で、この世界にいんの?」


1st.削除屋と世界

「……知らないよ」
知らないんだ。僕が何でこんな一つ間違えば死んでしまうような世界にいるのか。僕は、他の奴らと違って一撃で死んでしまうのに。
「異常虚弱体質」……それが、僕の鎖だった。
つまり、軽く叩かれれば直ぐに骨は折れるし、銃で撃たれたりしたら文字通りその部分が死んでしまう。頭や心臓を少しでも強く殴られれば即死する。……だから、人の「魂」と呼ばれる命を少なくとも1日にひとつ吸わなければ普通の体を保てない。
「……へえ」
その事を身を持って知っている「彼」……クロは自分で聞いた癖にまるでどうでもいい事のようにつまらなさそうに言った。
……違う。彼にとってはどうでもいい事なんだ。この世界も、僕も。
だからその世界を削除しようとしている「削除屋」の僕を止めようとしないし、僕が死にそうになっても助けない。それは僕もそうだ。
そんな事だから何時まで経っても仕事が進まないんだよ、と彼は溜め息をつきながら言った。……確かに、人の魂を吸うばかりでは進む仕事も進まない。
……この場合、「仕事」と言うのは世間一般で言うデスクワークだとかそういうものではなくて、「削除屋」の仕事………「世界を壊す」仕事の事だ。そう言えばどこかの可笑しくなった所謂夢見る子供だとかそう言うのは格好良いとか馬鹿な事を言うのだろうが、つまりは彼らのような平和惚けした奴らのいる世界を壊す仕事だ。……つまりは、世界の禁忌に触れる事も少なくない。事実僕は何度も史実を変えさせて何度も命を狙われて来た。……その度に、僕は魂を吸って来た訳だが。
嗚呼、そろそろ苦しくなって来たな。
「……ねぇ、クロ」
「何だよ」
「……殺していい?」
その時、クロの首が小さく縦に振られたのを合図に、彼の体が崩れ落ちた。今更確認する必要も無い。……彼は、死んだんだ。



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