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Re: 次元変更∞炎水風電 ( No.4 )
日時: 2010/10/08 17:37
名前: ソフィア ◆fwGIPea7qU (ID: nWEjYf1F)

第一話 使命放棄の王子様

「そんな事は認めんからな、エレットリコ!!」
「次元夢王」兼「国王」である、スタチック=マルクスは、息子の要求をきっぱりと断った。先ほどのふざけた調子の時とは違い、真剣な目つきをしている父親を見て、心が揺れてしまうエレットリコ。だが、
「もう決めた事です」
と、考えを変えようとはしなかった。
「そうか……」
そう言って、スタチックは俯く。
「お前なら……素晴らしい次元夢王になってくれると、思ってたんじゃがな……」
「父上……っでも、私の決心は固いのです。申し訳ありませんが、僕は、王にはなりません!」
エレットリコは、力強くそう言った。
「……ふむ、そうか……分かった、もうよいエレットリコ。お前は王にはなるな」
「ほ、本当ですか!? 有難う御座います父上ッ!」
エレットリコは思いがけない父の言葉に目を輝かせた。しかし、スタチックはそんな息子をチラリと見ると、彼の肩に己の手を置き、エレットリコの体をいとも簡単に持ち上げた。
「え? ちょ、ち、父上?」
エレットリコは分けも分からず、ただオロオロとスタチックの束縛を解こうとする。
しかしスタチックは、玉座の後ろにある小さな隠し扉を勢いよく開き、そこに息子を放り込んだ。

「——え」

エレットリコは、一瞬自分が何をされたのか分からなかった。
彼が父に放り込まれた隠し扉は、何を隠そう、人間界に続く物だったのだ。

「お前には失望した! もうこちらの世界には戻らないでいい!」
「は?」
「一生、人間界で暮らし、存在を生み出す喜びを楽しむが良い!」
「はぁ?」
「じゃあな! 私の最愛の息子、エレットリコ=マルクス!」
「え、えええええええええええええ!?」

またしても、クルーク神殿にエレットリコの叫び声が響き渡った。

同時刻、その声を聞いていたマゼンタはというと。
「あら? エレットリコ皇太子様の叫び声……いや、でもカーマイン隊長は、殆ど国王の仕業だって言ってたし……大丈夫よね」
そう言って、庭園にできた、大きな人型の穴の隠ぺい工作を始めた。
そして彼女は、穴の中に向かってこう言った。
「カーマイン隊長。生き埋めになるのと麻酔無しの大手術、どっちがお好みですか? あ、大手術をした後に生き埋めってのもいいですね。でも面倒くさいから、やっぱり生き埋めでいいですね。なんだかわたし、とても楽しくなってきちゃいました。隊長は、どうですか?」
「……は……ぁ」

「勿論、楽しいですよね?」
悪魔のような残酷な笑みを美しい顔に浮かべ、マゼンタはスコップで穴に土を埋めていった。

「マ、マゼンタ……っ、ぼ、僕が悪かった。じょ、冗談。冗談だったんだ。だ、だから……許してくれぇ……っ!」
カーマインは、残った力を振り絞って大声を上げるが、マゼンタには届かない。
「っ……マ、マゼンタぁぁっ!」

と、その時。

「——あああああああああああッッッッ!?」
カーマインが、獣のような声を張り上げる。マゼンタの手に、スコップが握られていなかった。
それもそのはずだ。だって、スコップは——カーマインの顔面にこれでもかという程に深く突き刺さっていたのだから。

「あ、落としちゃいました。ごめんなさい。ワザとじゃありませんので。本能的にしただけですので」
マゼンタは、クスリと笑った。

カーマインは、その後没した。