ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Episode3 正体 ( No.10 )
- 日時: 2010/07/18 14:44
- 名前: 絶櫨 ◆kaIJiHXrg2 (ID: aeLeTDX9)
次に私の意識が戻ったのは夜だった、満月で綺麗な月光が波に揺れる船を照らす。
有りがちな表現だが、正にそれが相応しい、そんな光景だ。
私が起き上がると、ベッド脇にあった椅子に月光を反射して金色に光る長髪で本を固定し読んでいたのだろう、誰かが寝ていた。
「ねえ、……起きてる?」
私は空気を読むと言う行動も無く眠っている何者かを揺する。
「ふぁ……?ねむいんだから起さないでよ……」
何だ?中々起きる気配が無い。
一瞬寝ぼけて喋ったが、どう揺すって起そうとしても起きる気配はまったくのゼロだ。
強く揺すった瞬間、何か見えない壁が私を弾き飛ばした。
「な……何?これは……魔法?」
どうやらこの時代に発見された魔法を使うらしい、しかし眠りながら発動すると言うのは聞いたことが無い。
手を近づけると、確かに何かが私とコイツの間に見えない壁を作っていた。
「…………空気操作なんて初歩的な魔法がそんなに珍しい?」
そいつが起き、私の手を掴んだ。
振りほどこうとするも、もの凄い握力だ、声の感じからして女だが、そんな事は思わせない力が腕に掛る。
「折れるって、離してよ!」
「この程度では君の骨は折れないよ、折れても2秒もあれば治るし」
何を言っているのかさっぱりだ、2秒で骨折が直るって !?
そんな馬鹿なことがあるわけが無い。
「2秒で治るって、どんなバケモノよ !? 」
そいつの力が抜けていくのを感じとっさに振り払った。
「……何で?ソフィア、貴方まさか……!ううん、そんなわけ無いよね。話は変わるけど……君、何歳?」
何故今その話が……?
それに、何故私の名前を知っている !?
「私は16よ。それより、何で名前を……?」
そいつは月光の届く窓際へ、ソフィアへと近づくと、驚きの言葉を放った。
「知っているとも、うん。900年前の私の仲間、忘れるわけ無いでしょ?と言うか、何で私がわからないの……?」
…………はぁ?
今一よく分からない、現状整理をしてみるとしよう。
つまり、私はこの女の子……といっても同い年くらいか。
この子と知り合いって事?今まで会った事も無いし、名前も分からない。
そういえば、名前は——…?
「ねえ、君誰?」
そいつはかなりショックを受けたようで、軽くよろめくと元の闇の中の椅子へと座った。
「私のことも覚えてないの……?まあ良いや、少しづつ思い出していきましょうか。私は、アリソン・F・セイファート、貴方の主人で21代目魔王よ」
ありそん・えふ・せいふぁーと……、聞いた覚えも無ければ、見た覚えも……ある!
記憶が正しければ昨日の新聞に出ていたな、魔の海賊船船長の賞金の値上げ。
この時代に珍しく海賊を営むバケモノ染みた精神力を持ち、政府の海兵支部を幾つも壊滅させたと言う……!
その記憶が脳裏の過ぎって数秒後、恐怖が私の体を硬直させる。
「やっと分かったかな?ソフィア、君は私の船に必要な戦力なんだよ。馬鹿な人間を地上から消し去るためにね」
なッ……人間を消し去る !?
しかし、驚いたのはその前の言葉。
「私は何の戦力になるの……?人一人殺した事の無いただの人間に!」
そいつは、私飲み身元でそっとこんな言葉をささやいた。
「キミハニンゲンジャナイヨ、不死鳥トイウ魔族ニモ人間ニモ分類サレヌ存在ダヨ」
その言葉が私の中で消化される頃には夜が明ける。
朝陽が水平線から立ち上るのとは反比例して、私の脳は混乱し、何も考えられなくなっていった。