ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re:    かなりあ ( No.4 )
日時: 2010/07/24 20:51
名前: しゅがぁ.こむ ◆xP0V8Tcjck (ID: iYyccJ4w)


 午前三時。俺は、けたたましく鳴る目覚ましを黙らせ起床した。睡眠時間は約五時間程度。もう半年も続けているわけで、この生活には慣れてしまった。そう……半年も経ったのだ。
 顔を洗い、服を着替え、黒いコートを羽織り家を出る。結を起こさないようにそーっと玄関の扉を開け、俺は小さな声で——

「行ってきます」

そういって家を出るのだ。
 まだ辺りは薄暗く、電灯には小さな虫達が群がっている。車の音や人の喋り声は全く聞こえない。

「と……、ぼーっとしてるわけにゃいかないな」

 俺は自転車にまたがり、バイト先の新聞専売所へと向かう。
 周りは住宅街なわけで、田んぼが広がっていたりとかの田舎ではない。俺としては、綺麗な大自然を悠々と走りたいものである。……もちろん自転車で。
 俺の家から専売所までは、数分あれば行ける程度だ。まぁそれが理由でバイトしてるってのもあるが、お袋の親友が専売所の所長だというのも理由のひとつなのだ。正直言ってしまうと、その所長から勧誘されてバイトしてる。お袋が入院してからというもの、随分とお世話になりっぱなしだな……そういえば。

「恭介くーん!」

 そんな所長、明日香さんのことで思いふけっていると、急に俺の名前が呼ばれた。まぁこの時間帯に、この場所で呼ばれるってことは、声の主……それは——

「明日香さん、何もそんな近くで叫ばなくても聞こえますよ……俺、まだ十七ですよ……?」

 河口明日香。ここ、河口新聞専売所の所長である。専売所の二階から顔だけ覗かせている状態だ。

「むぅ……! あたしが老けてるみたいな言い方ね、それ」

 眉間にしわを寄せ、子供のようにほっぺたを膨らませている。これはまずいな……。

「違いますって! あっ、これが今日の分ですよね……っしょ。……それじゃ、いってきます!」

 俺は、専売所玄関前にあった新聞の山を自転車のカゴに詰め込み、急いで自転車を走らせた。……明日香さんの前で歳の話はだめなんだった。

「あ、ちょっと!?」

 すみません。三十分も愚痴聞いてる暇ないです、明日香さん。
 しかし、今日も明日香さんは綺麗だったな……。いくら見上げる形とはいえ、長い黒髪に整った顔立ち。そこにアクセントとして眼鏡である。大人な女性ってあんな感じなんだと俺は思う。隠れファンも多いんだとかなんだとか……。

「さて……今日も頑張りますか……っ!」

 なんにせよ、仕事から帰ったら愚痴は回避できないだろう……。今の新聞配達だけでも、張り切っていかないといけない。
 俺は自転車のペダルを一層強く踏み込み、ゆっくりと順調に仕事をこなしていくことにした。
 遠くでは少しずつ空に明るさが出てきている。