ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re:    かなりあ  ⅰup now... ( No.5 )
日時: 2010/08/08 15:11
名前: しゅがぁ.こむ ◆xP0V8Tcjck (ID: fW1SagZy)



「よっこらせ……」
「あ、そこのテーブルに置いておいてね」
「了解」

 時刻はいつのまにか正午を過ぎていた。そんな中何故か俺は明日香さんの部屋の片づけを手伝っている。何故かという表現は間違っているか。……正式には、罰を与えられたのだ。

         *


 かしゃん、という最後の金属音と共に新聞紙が郵便受けへと吸い込まれていく。

「ふぅ……これで終わりだな」

 これで今日の分の郵便配達は終わりである。最初のうちはどういった順番で行くのかなど手間取った部分もあるが、今では何も見ずにいけるようになった。……慣れって怖いよな。
 それが幸いしてなのか今日は異常に配達が早く終わった気がする。携帯電話の時計で時刻を確認すると、まだ五時だ。いつもなら、六時頃に終わるはずなんだけどな。

「はぁ……理由は明確。そして、帰ったら確実に明日香さんに捕まる。……俺一生の不覚」

 携帯をポケットにしまい、また来た道を戻る。いらん溜息もついてきたけれど。
 専売所に近づくにつれ、次第にペダルも重く感じてきたときだった。

「ぬぁ、っと……携帯か」

 ポケットで携帯が鳴った。一瞬びっくりはしたものの、心当たりは一人しかいない。俺は何度目かわからない溜息を盛大にし、携帯にでた。

「も、もしもし」
「あなたには選択肢が二つあります」

 普通電話に出た瞬間選択肢を迫る人はいない。
 携帯の画面に表示されているのは……明日香さんの名前。そして、この声明日香さんに間違いは無い。……俺の予想は見事、ビンゴだ。仕方なく選択肢を聞いてみることにした。

「ひとーつ、給料を激減!」

 さて、二つ目の選択肢に期待だ。俺は自転車をこぎつつ電話に応答していたが、さすがに金の話題となれば話が別だ。歩道へと自転車を寄せ、二つ目の選択肢を待つ。

「ふたーつ、タダ働きで午後まで働く」
「あんまりじゃないですか!?」

 タダ働きはさすがにキツいです。そう思った俺は講義を始めようと電話越しでありながら臨戦態勢。だが、まさかの三つ目の選択肢が登場したとき、俺は即答してしまっていた。

「……みーっつ、クビ」
「是非に二つ目で」
 
 明日香さん、クビの発音が本気ですよ……。

           *


「いやー、ありがとね恭介くん」

 一人椅子に腰掛け、ふんぞり返る明日香さん。いえ、礼には及びませんよ。

「仕事ですから」
「タダ、だけどね」

 綺麗な花には棘がある。まさに、ではないだろうか。タダ、を強調した明日香さんに俺は苛立ちを覚えた。

「それはさておき、お母さんの具合どう? まだ……良くはならないみたいね……」

 だが、明日香さんの話題転換にその苛立ちがいつの間にか別のものへと変わった気がした。

「そう……ですね。あれ以来変わりないですよ、喋れるだけでも良かったです……」

 俺は仕事……もとい掃除を続行しつつ、話に応対する。額の汗が一瞬冷たくなったのはお袋の最悪の状態が浮かんでしまったからだ。……このまま死んでしまうのか。そうしたら結と二人で生きていかなきゃならない……。それを考えるだけで体中が一気に冷える。

「ごめんなさい……」
「なんで明日香さんが謝るんですか。……別に大丈夫ですよ。現にこうしてやってきてるじゃないですか、俺」

 何か良く分からない感情が俺の中で回っている。だけど、その正体がなんなのかは分からない。ひとつ言えるのは、あまり気持ちの良いものではないということだけだ。

「……」

 しばしの無言。俺は黙々と作業終わらせた。明日香さんはといえば、何かかける言葉は無いかと探しているようだった。
 作業も一段落し、もうこのまま帰ろうかという考えが最後のダンボールを片付けているときに頭をよぎった。

「恭介くん」

 嫌な雰囲気の中、明日香さんが口を開いた。明日香さんの俺を呼ぶ声は、優しさと哀しさが交じり合っていたように感じた。