ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

第二話 ( No.3 )
日時: 2010/07/19 15:29
名前: 耀 ◆63r2U4AfbM (ID: nmGiLBrS)

「うん、これで全部磨けたかな」
尚希は誰に話すでもなく独り言で呟くと、手に抱えていたそこそこの価格の壷を、ガラスのショーケースにしっかりと仕舞った。

AM9時45分——間も無く開店の時間になろうとしている。
尚希は少し開店には早いなと思いながらも店のシャッターをあげ、外の空気を店内に入れようと考えた。

(あれ…雨降ってたんだ…)
それじゃあ今日の客足は少ないだろうな、と溜息混じりに心の底で嘆いた。

しばらくボーっとしていると雨なのに、傘も差さずこちらに走ってくる人影が見えた。
尚希は時計に目をやると、まだ先ほどから5分しか経っていないということに気が付つくのだった。
普段ならこの時間帯に店に来る人はそうそう見ないし、その人の必死な顔を見たら余計怪訝に思ってしまう。

その人物が近づいてくるにつれて、その人は女性、しかも年配の方であること、手に風呂敷で包んだ箱らしきものを抱えてることに気付く。
尚希が分けが分からないという顔をしていると、雨にぬれたその女性は尚希の目の前に来ていた。

「あ…あの…なんでしょう…?」
緊張のあまり、思わず声が上擦ってしまう。
女性はといえば、息苦しそうに呼吸をするばかりで口を開こうとしない。

「開店までにはまだ少しありますので、店内で少々お待ちいただけますか?」
苦笑いを浮かべて自分はドアの端に寄り、「どうぞ」とその女性が通りやすいように道を空けた。
その時——。

「お願い!お願いだからこれを引き取って!!」
いきなり腹に手に抱えていた箱を押し付けられ、尚希はよろめく。
その彼女の顔は泣きそうな程にしわくちゃになっていた。

「えぇと…じゃあ鑑定と代金を…」
突然のことで気が動転しながらも、尚希はその女性に言った。

「いらない!お願いだから引き取って頂戴!」
「そういわれましても…」
困ったなあと内心思い口ごもる尚希。
「あ!!待って下さい!」
その女性は泣きながら走って逃げてしまった。

「どうしよう…」
尚希は抱えている包みに視線を送る。
しょうがないなあと思い、それを店の中に運ぶ。
この頼まれたら断れない自分の性格が自分でも嫌いだと思っている尚希だが直したくても直せないのだ。

「?…今箱が動いたような…」