ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 漆魔転生物語 ( No.8 )
- 日時: 2010/07/31 13:53
- 名前: 叶嵐 ◆RZEwn1AX62 (ID: fMPELWLk)
act.6[赤、紅、緋、朱]
——————誘い込まれた異世界
—————————出会った異世界の獣
————————————彼が言った
「さぁ、Gameの始まりだ」
・・・
日本刀の一振りにより切断された前脚。
吹き出る血液。
唸る異世界の獣。
それを見上げ、満足そうに笑う18歳の少年。
刹那、怒号とともに消えた前脚とは反対の脚で少年を押しつぶそうとする怪物。
「危ない!!!」
すさまじい爆発音。
煙が晴れたその場所にあった光景は、何とも信じがたいものだった。
へこんだ地面。
憤然と立つ少年。
狙った場所と外れた前脚。
笑う少年。
消える脚。
「あはははははははは!!!さようなら、怪物くん!!短い人生の幕引きだぁぁぁ!!!」
一瞬にして消える怪物。
それを見て満足そうに頷き、こちらに向き直る。
「では、少し区切りがついたので君たちには飛んでもらうことにしましょう」
「と、とぶ・・・・???」
先ほどの光景を見せつけられ、1年生は怯えている。
「そ♪んー、じゃぁねぇ、緑山君」
「!!!」
名前を呼ばれた彼は、さっと身構える。
「ああ、そんなに緊張しなくてもいいんだ。ちょっと、死んで?」
「はぁ?!・・・・・!!!」
最後の発言に警戒が緩む。
その瞬間だった。
一気に懐に飛び込んだ黒崎さんは緑山 慧の顔を軽く持ち上げ、自分と目を合わせる。
「うん。いい目だ」
「え・・・」
笑う、嗤う、哂う。
肉の裂ける音がした。
右肩から左側の腰にかけての深い切り傷から赤黒いものが吹き出る。
「・・・っあ・・・」
そのまま、あおむけに倒れる。
制服がみるみる染まる。
だんだんと、鉄臭い水たまりが広がる。
笑っていた彼は紅く染まり、切り倒した者の体を流れていた水を滴らせていた。
「1名様ご案なぁい♪」
言葉のトーンとは裏腹に彼の顔には表情がない。
「・・・・っ、な、なにしてんのよっ?!!」
ショックから立ち直った黄原 琴音が悲鳴に近い声を上げる。
「なにって、彼を飛ばしてあげたのさ☆」
彼は、顔いっぱいに人懐っこい笑みを浮かべた。
「と、飛ばすって・・・た、ただの人殺しじゃない!!!」
全身がふるえている。
全身が、彼女の心が、目の前にいる人間1人に完全に恐怖している。
息が荒い。
膝まで笑いだしている。
間もなく彼女は、膝をつき吐き出した。
青井 唯が駆け寄り彼女の背をさせる。
優しく声をかけているが、はたして彼女の耳には届いているのか。
「んじゃぁ、リクエストにお答えして次は、黄原 琴音さん、君だ★」
「!!!」
うまく呼吸できていない。
体全体がふるえて、立ち上がれない。
ゆっくりと近づく殺人鬼を凝視し、何とか逃げようともがく。
殺人鬼は目を閉じ、大声で歌いだした。
「 薄い緑色の髪が自分自身の血液に染まる時、殺人者は嗤う。
次の狙いを決めて、嗚呼、歩き出す。
黄色い髪の少女は畏れる。
自分とは違う。その殺人鬼を。
嗚呼、だが考えてみよう。
ただ、ついさっき、紅いものを見るまでは、彼もまた、人間だった。
では、 彼女は何を恐れる。
彼女は何を怖れる。
彼女は何を畏れる。
それは、紅き水を浴びし銀白の刃。
それは、刹那の瞬間の自分・・・」
「アッ、はぁ・・・ヒッ・・・」
畏れで呼吸ができないからなのか、彼女の喉からは途切れた音しか聞こえない。
「うーん、今のはいまいちだったなぁ・・・まぁ、いいか。俺、別に歌手とか目指してないしなー」
うんうんと一人納得すると、日本刀を振り上げる。
「じゃ、いってらっしゃーい」
抑揚のない声とともに刃を一気に振り下ろす。
「あと、2人かー」
俺も青井 唯も身構える。
たぶん、あの人の前では無意味なのだろうがみすみす殺されるのはいやだ。
彼は、本当に楽しそうに笑う。
- Re: 漆魔転生物語 ( No.9 )
- 日時: 2010/07/31 21:54
- 名前: 叶嵐 ◆RZEwn1AX62 (ID: fMPELWLk)
あと2人、どうやって消してやろうかwww
act.7[死してなお、彼らは哂う]
暗いくらい闇の末、見つけた光は過去の光。
そこでの光景を忘れるでもなく、ただただ頭の中でリピートされる。
染まる赤。流れる紅。浴びる緋。
俺は、何だ?
なんでここにいるんだ?
嗚呼、これはなんだろう・・・。
ほおを伝う、温かい水は・・・。
忘れていた。
思い出せ。
お前は、俺は、僕は、私は、我は・・・・。
———思い出せ。
・・・
「レッツゴー☆」
気の抜けた号令とともに、黒崎さんの姿が消える。
「!!」
青井 唯は懐に入られる寸前に反応し、後ろに飛びずさる。
「?あれぇ???」
そのまま横に一閃するが、制服をかすっただけだった。
「青井!!」
その時、気付いたのだがあと2人。
白鷹さんと紫遠さんはどうしたのだろう?
黒崎さんに注意を向けつつ、2人の姿を探す。
そこで俺は、信じられない光景を目にする。
「いやぁ、やっぱ白鷹先輩が入れたお茶、おいしいなぁ・・・」
「ありがとう」
「いえいえ、本心ですよ」
そういって、のんきにお茶をすすりながら笑っていた。
「・・・信じらんねー」
こっちでは、今まさに俺の右腕が別れを告げるところだった。
寸でで反応できたものの避けきれず、二の腕が切られた。
「このッ・・・!!」
ていうか、あちらは日本刀、こっちは素手。
反則すぎる。
「むぅーー」
完全に遊ばれてんだよなぁ・・・俺達。
それは、青井 唯も感じているらしくだんだんとスピードが落ちている。
息が上がる。
黒崎さんは、青井の首一直線に日本刀を突き出したが、避けられる。
ギリギリの攻防だ。
勢い良く行き過ぎたのか、黒崎さんの体が前のめりになる。
青井はそこを、見逃さなかった。
「うああぁぁ!!!!」
脇腹に一発。蹴りを入れた。
油断していたのか殺人鬼は吹っ飛んだ。
「ハッ・・・ハァ・・・ハァ・・・」
息を整える。
「大丈夫か?!青井」
「・・・ああ・・・ダ、だいじょ・・・」
眼が見開かれる。
彼の視線の先には、パタパタと服に着いたほこりを払っていた殺人鬼だった。
「嘘・・・だろ・・・?」
崩れ落ちそうになる青井の体を支える。
確かに、青井の蹴りはまともに入っていたはずだ。
あそこまで平然とされると、さすがに傷つくぞ・・・。
刹那、殺人鬼は消えた。
少なくとも俺たちの目の前からは。
「!!!」
何が起こっているのか、すべてを理解したのは青井に突き飛ばされた後だった。
彼は、笑った。
泣きそうな顔で。
最後に彼の口から紡がれた言葉は『さようなら』だった。
彼は、前のめりの倒れた。
「さてと・・・、やっとあと1人だ・・・」
こびりついたどす黒い血液に、もう染まる個所もないような制服に身を包んだ殺人鬼は日本刀の血を一振りで吹き飛ばす。
「・・・んだよ・・・」
「へ?」
「・・・んだよこれ・・・・・・なんだよ、これッ・・・なんなんだよおおおぉぉぉぁぁ!!!」
腹の底から声を出す。
俺は、殺人鬼を怨むように睨みつける。
「・・・そっか、怖いよねぇ・・・目の前で3人も殺されちゃったんだもの。でもね・・・怖いのはわかるけれど・・・その目は気に入らないなぁ!!!!」
今までとは比べ物にならない速さで俺に切りかかる。
俺も、全神経を研ぎ澄まし避けていく。
だが、だんだんと傷が広がっていく。
血が止まれない。
だけど、足を、鼓動を、止める気にはならなかった。
「さっさと死ねやあああああああああああああ!!!」
殺人鬼の怒号とともに日本刀の輝きが変わる。
銀白からさらに輝きを増していく。
「・・・ッウ・・・!!!」
殺人鬼を直視できなくなり、思わず腕で目を覆う。
ドッ・・・・!!
俺の腹に深々と突き刺さった日本刀を彼は軽々と引き抜く。
「・・・・ェ、ガハッ・・・」
口元から盛大に吐血し、膝をつく。
視界がにじむ。
ダバダバと血が噴き出しているのが分かる。
ああ、死ぬのかな・・・俺・・・。
口からも腹に空いた穴からも俺の血液は留まることを知らないかのように流れ落ちる。
「ふぅ・・・全く、こんなにしつこかったのは君が初めてだ」
殺人鬼もとい黒崎 恋華は、しゃがみ込み俺と視線を合わせる。
「けどまぁ、俺的には楽しかったよ?うん。それじゃあ、心おきなく行ってきなさい」
最後に俺が覚えているのは、黒崎さんの、彼のさわやかな笑顔だった・・・・・・・・・・・・・・。
——こうして、俺は深い深い暗闇に身を任せた。——