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Re: 黒夜叉伝記 〜必殺技募集中〜 ( No.78 )
日時: 2010/09/12 08:53
名前: るりぃ (ID: lc..8kIC)

Scene19『亀裂』

冷嘉が里に来てからずいぶんと時間が経った。
周囲が驚くくらいの早い上達に、頭領は「俺の眼に狂いはなかったな。」と満足そうに笑った。
そして、ある日の事。

「冷嘉、お前に仕事を命じる。」

それは、いつもの飄々とした男ではなく、厳格な忍の郷の<<頭領>>としての命令であった。



—————……・・



「…これでオシマイ。」

冷嘉は最後の仕上げとばかりに炎のついた村に向かって手にもっているそれを投げ入れた。
そして、背後から近づく人物の気配に冷嘉は薄い笑みを浮かべた。

「——…お前、…お前はっ!」

声が震え、言葉が出てこないといった様子の狢に冷嘉は少しだけ不思議そうな顔をした。
自分のその状態をみても言いたい事がわからない冷嘉にいらだったのか、狢は冷嘉の頬を思い切り引っ叩いた。

「何故断らないんだ!? ここは、お前が育った村なのだろう!」

引っ叩かれた頬は熱を持ち、ジンジンと痛んで耳鳴りまでした。

「下手な攻撃よりも効くなこれは…」

話をそらそうとしている冷嘉に狢はキッと眉を吊り上げて口を開こうとした。
冷嘉は叫ばれてはたまらないと狢の口をふさぐと、ため息をついた。

「何故断らないか? その答えは簡単なことだろう?」

簡単という言葉に狢が冷嘉の手を払いのけ、冷嘉に掴みかかろうとする。
が、冷嘉はそれを軽く避け、一瞬で狢の背後に回ると狢を羽交い絞めにした。

「『疑わしきは消せ。たとえ肉親や恋人であろうとも疑わしきものならば消せ』」

冷嘉に耳元で囁かれた言葉に狢は一瞬動きを止める。

「郷で言われつづけてきた言葉だ。忘れたわけではないだろう?」

返事をしないで黙り込んだ狢をみて、冷嘉は逃げていく人々の方に視線を向けた。
そして、狢から手を解くと、冷嘉はブーメランのような刃物を投げた。
冷嘉の手から放たれた刃は逃げていく人々を切り裂いた。
切り裂かれ、倒れていく人の中に自分に飯を持ってきてくれた少年がいが、冷嘉にはそんな事はどうでも良かった。

「……お前は…」

一連の流れを見ていた狢は、痛ましそうに顔を歪めた。
もしかしたら泣く寸前だったのかもしれない。
だが、冷嘉が彼女の泣き顔を見たことはない。
これからもないだろう。

「お前は、必要になれば全部捨てるんだな。」

「だろうね。」

独り言のような小さな声に頷く。
だって、そうして生きてきた。

「…きっと、仕事だからと同じ釜の飯を食った仲間や、——…私も、お前はなんの躊躇もなく、殺すんだろうな。」

ぐっと、目を閉じて、狢は冷嘉に背を向けて消える。
もう此処にはいない狢の言葉に、冷嘉はそうだね、と、薄い苦笑いを浮かべた。
きっと、彼らを手にかけるのだろう。
先刻、刃を投げつけた少年のように、あっさりと。
そして、それに対してなんの感傷も抱かない。

「私は人形だからな。」

人形が感情を持つなんておかしな話、あるはずがないのだから。
ゆらりと、闇が笑った気がした。

To be contineu…