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Re: 黒夜叉伝記 〜必殺技募集中〜 ( No.79 )
日時: 2010/09/12 08:54
名前: るりぃ ◆wh4261y8c6 (ID: lc..8kIC)

Scene20『別れ』

任務を完遂した冷嘉を待っていたのは、妙齢の女だった。
どうやら、この格好が一番気に入っているらしいから、もしかしたら頭領は女なのかもしれない。
そんなどうでもいいことを考えながら、冷嘉は手早く任務の報告をした。
それを受け、頭領はゆっくりと立てた膝の上に腕を乗せた。
だが、その気だるそうな動きとは裏腹に、にたりと唇を吊り上げる。

「合格だ。さすがは人形だな。」

期待通りだと言葉を継ぐ頭領に「どうも」と無表情で返す冷嘉だが、実際、特に何とも思わない。
任務、仕事なのだから、こなして当然。
そんな思いがあることを否定はしない。
認められるか、死か。
どちらか一つだ。

「さて。私の可愛い人形に朗報と凶報だ。どちらから先に聞きたい?」

「どっちでもいいけど。それじゃ、朗報からで。」

無邪気な子どものように問い掛けた頭領を訝しみながらも冷嘉が答えると、頭領は近くの文机から一つの書簡を投げて寄越した。

「お前の仕官先が決まった。なかなかいい値がついたぞ。」

「ふーん、烏魔家か。確か忍の家系だったな。」

「ああ、だが車とも並べるくらいの忍をご所望だったからお前を推した。喜べよ、この私が推薦してやったんだ。」

「それはどうも。」

魅惑的な微笑に肩を竦めただけの反応が面白くなかったのか、頭領は鼻をならす。
そして、思い出したように、凶報を口にした。

「狢が里を抜け出しぞ。」

「そうか……って、は? 冗談だろう?」

「冗談でこんなことは言わん。なんだ、お前にもそんな顔ができるんだな。」

驚愕する冷嘉を嬉しそうに眺める。冷嘉はそれに呆れて「頭領…」とこめかみを揉みながらため息をついた。

「そういうことは、もっと早く言ってくれ…。いくら感情が表に出やすいからといっても、狢も忍だ。追うにしろ、それなりの準備ってものが…」

「何を勘違いしている。誰がお前に狢を追えと言った?」

きつい声音にどきりとする。見れば、今度は頭領が呆れたように息を吐いた。

「お前は烏魔家に仕官する。里のことは里でするから気にするな。」

「気にするなって…。私は狢の妹分のなのだから私が始末つけるのが掟ではないのか?」

「本来はな。だが、烏魔家の要請の方が早かった。狢は運がいいな。」

ニッと口端を上げた頭領は、呼吸一つ分を置いて、冷嘉に手を伸ばした。

「お前は烏魔にやる。だから今後、主命がない限りはわざわざ狢を殺さなくていい。」

「何? 私に狢は殺せないとでも?」

「いいや、殺せるだろう。まず間違いなく。だが——…」

フッと意味ありげに微笑む頭領はその続きを言わずに、手を振って冷嘉を下がらせる。
冷嘉は釈然としないながらも、不承不承で従った。
烏魔に行くと決まったからにはそれなりの準備が必要なのだ。
誰もいなくなった部屋、繊手を口元へやって、呟いた。

「お前には、一つでも人間たらしめるものが必要だろうからな…。」

その呟きは、吐息に混じって消えていった。

To be contineud…