ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 黒夜叉伝記 〜必殺技募集中〜 ( No.83 )
- 日時: 2010/09/18 12:28
- 名前: るりぃ ◆wh4261y8c6 (ID: XNW/1TrV)
Scene22『死』
「——…私が見つけるとき、お前はいつも死にかけているな。」
くつり、と笑い声が落ちる。
とたんにあがる絶叫と、鼻につく臭い。
冷嘉は聞こえた懐かしい声に閉じた瞳を開いた。
その人物の紅に染まるその手から、ぽつりぽつりと滴が落ちる。
「頭領…?」
「下手を打ったな、冷嘉。」
魅惑的な微笑を浮かべ、頭領は刀を一閃させる。
敵忍の屍で築かれた道を、冷嘉の腕を掴んで走りだした頭領は、いなし、蹴りあげ、投げて、切り付け、殺しながら追ってくる敵忍を確実に減らしていく。
頼もしすぎる背中を追いながら、冷嘉もそれを手伝うが、倒した敵兵の数は、頭領の方が圧倒的に多かった。
「……化け物みたい。」
敵忍が追って来なくなったのは、山をひとつ抜けた場所。小さな堂の中で、雨から逃れて冷嘉はぜぇぜぇと喘ぎながら、呼吸を整える。
「ごほっ、お前が未熟なだけだろ。」
ふっ、と笑いながらも、頭領は少し咳き込んで水を呷った。
さすがの天才も、少しは疲れたようだ。
化け物みたいだと思ったが、やっぱり人間なのかも、と思って冷嘉は小さく笑った。
「………ずいぶんと、表情が増えたな…。」
笑った冷嘉を見て、頭領は独り言のように呟いた。
それに冷嘉が首を傾げると、頭領は細い指先を冷嘉の頬に滑らせる。
「初めて会ったとき、お前は本当に人形のようで、表情すら作り物めいていた。」
「それは、私は《人形》だからな。誰かの指示がなければ動かない、人形。」
「そう、お前は人形だ。いくら表情が増えたとはいえ、溢れだすほどの感情をお前は持たない。」
わずかに存在する感情をいとも簡単に殺してしまう。
けほっ、と頭領は咳き込む。それでも唇を歪めて、笑んでみせる。
「お前は人間になりきれない、哀れな人形だ。」
そう言った途端、一際大きく咳き込んで、その紅い唇に鉄の臭いがする朱が塗られる。
「頭領!?」
血を吐いて傾いだ頭領の身体を冷嘉は慌てて支える。
と同時に頭領の身体は赤い髪、赤い瞳の男に変わる。
冷嘉はそのことに多少驚きながらも頭領の頭をゆっくりと自分の膝上におろした。
頭領の荒い息遣いが聞こえる。
「頭領、どこかやられたのか? ……いや、そういえば前からたまに咳き込むことがあったな。」
「なんだ、気付いてたのか。」
くつり、と喉の奥で嗤った拍子に血がせり上がってくる。五感の優れている冷嘉には、直にそれを感じることができた。
「たかだか数年で、お前は置き人形から人形に変わった。あと数年すれば、どう化けるか……」
咳をしながらそう口にする頭領に、黙るよう促しても平気で無視をする。
知っているのだ、もう時間がないことを。
「なぁ、冷嘉。お前はさっき俺を化け物みたいだと言った……。昔から、似たようなことをよく言われたよ。——…機械のようだ、とな。俺も、そう思ってた。………他の者と自分が異なると。」
だから、お前と俺は似ていると思ったんだ。だから拾った。
感じる重みが大きくなる。頭領の身体が冷たくなっていくのは、雨で体温を奪われただけではないだろう。
冷嘉はこの状態で何も出来ない自分が情けなくなり、唇をかみ締めた。
To be contineud…