ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: −Alive− ( No.3 )
日時: 2010/07/20 16:10
名前: 獏 ◆jOx0pAVPUA (ID: og6.uvq4)

#01 日常

暑い。
かなり暑い。

夏休みまでの残りの登校日数、今日を含めて後十日。
俺は十日間もこの暑さの中、登校しなきゃいけないのか。
そう考えるだけで嫌気がさした。
「家でアイス食ってゴロゴロしていたい」
そう呟く声も蝉の鳴き声に掻き消された。
色素の抜けた薄い金色の髪が汗で顔に張り付く。
それがさらにうざくて、俺の苛立ちを増させる。
制服のネクタイを弛め、手で仰ぐがそれも無意味に思えてくる。
そんな中耳に入るチャイムの音。
そして鈍い門の閉まる音。
「ヤベェ!! 閉まる!!」
俺は暑さなんか気にせずに目の前の門に向かって走った。

既に人気のなくなった廊下。
あぁ、完璧に遅刻だ。
これなら急がなくて結果は一緒だった。
溜息を落として人気のない廊下をトボトボと進む。
どの教室を覗いても既にホームルームが始まっている。
それは俺の教室である一年D組も同じだった。
「……すげー入りたくない雰囲気」
覗き窓から少し見てみるが、どうも入りにくい雰囲気だ。
俺の存在に気付いた友人が指差してニヤニヤ笑っている。
しかしこのまま廊下で過ごすわけにもいかない。
……いっそのこと帰ってしまおうか。
そんなことを考え出した時だった。

「君、何してんの? 登校時間はとっくに過ぎているはずだけど?」

背後からの突然の声に俺は肩をビクつかせゆっくりと振り向いた。
出来れば顔を見たくない。
現実から逃げたかった。
だって、俺の今後ろにいる人物は、
あの“生徒会長”だから。
「えーっと、あのー……。これはですね」
恐怖から言い訳すら出てこない。
何故こんなに俺がこの生徒会長を恐れるか。
その理由は三つ程あった。
一つ、入学初日、髪の色で呼び出され、あの某漫画の風紀委員長なみに殺されかけたから。
二つ、俺の赤と灰色のオッドアイ(生まれつき)をカラコンかと疑い、目潰し攻撃を仕掛けてきたから。
三つ、実はというと、この遅刻は五回目で前回「次遅刻したら潰す」と言われているから。

いや、ホント怖い。
「ねぇ、聞いてるわけ?」
ほら、声が怒ってる。
「君、前も遅刻してたよね? 音無 紅逆(オトナシ クサカ)君?」
名前を呼ばれたことによって恐怖は最高潮まで達していた。
そして耳に届いたチャイムの音。
それはホームルームの終了と一時限目の始まりを示していた。
俺はこの機会を見逃さない。
「会長、授業始まるんで俺、行きますね!! さよなら!!」
そのまま静止も聞かずに走り教室へ入る。
どうやら追ってこない様子だ。
諦めてくれたのだろうか。そうだと嬉しい。
教室へ入った俺のもとに友人たちが駆け寄ってくる。
「どんまい、音無。お前、完璧に生徒会長に目ぇ付けられたろ?」
「まぁ、頑張れや」
人事かのように笑う友人に軽い殺意が沸いた。
……まぁ、確かに人事なのだが。
いろいろあっても俺は普通の高校生で、
友達もいて、
それなりに充実した毎日を過ごしていた。

そんな俺の普通で大切な毎日が、
こんなに簡単に変わってしまうなんて
その時の俺は

考えもしていなかった。