ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: −Alive− #03up オリキャラ募集 ( No.14 )
- 日時: 2010/07/29 14:13
- 名前: 獏 ◆jOx0pAVPUA (ID: mXej9PvR)
#06 誘拐とハッカー
目が覚めたらそこは不思議の国でした。
的な展開ってよくあるけど、それを自分が体験することになろうとは。
残念ながら不思議の国ではないが、自分の来たことのない場所だということは、はっきり分かる。
確か、屋上で眠先輩に出会って、その後昼寝して……そこからプッツリ記憶がない。
「あれ……。俺、なんでこんな所にいるんだろう」
暗くて周りはよく見えないが、かび臭さと湿っぽさ、あまり使われていない場所だと思う。
「眠先輩……います?」
尋ねるが返ってくるのは響いた自分の声だけ。
人の気配もないし、近くに人がいないのは確実だ。
家が道場で、昔、祖父に刀の使い方や気配の読み方を習ったが
それが今こうして役立つとは思ってもいなかった。
「なんか最近俺、こんなのばっかり……」
そう愚痴るがそれで状況が変わるわけでもなく、とりあえず立ち上がろうとしたが立ち上がるどころか、
手足が全く動かない。
「ありゃ? 動かねぇ……。って縛られてんのか」
この状況を何故俺はこんなに冷静に捉えられているのだろう。
普通だったら馬鹿騒ぎするのに。
あぁ、そうか。
ここ最近いろいろと巻き込まれたから状況把握術が長けたのか。
のん気にそんなことを考えていれば、背後に感じる人の気配。
「誰? 名乗れよ」
相手が自分に近づく前に問いかける。
背後にいる人物は動きを止め、フッと笑った。
「僕の気配感じ取れるなんて……。お前、なかなかやるね」
まだ若めの声。
「……俺を此処に連れてきたのはアンタ?」
「違うよ。僕はただの雇われ人。お前の様子見に来ただけ」
そして暗かった部屋が明るくなる。
男が電気のスイッチを入れたようだ。
「僕は梗(キョウ)君は音無 紅逆クン、だよね?」
目に映る白金の三つ編み。
黒いジャージに青いバンダナ。
梗と名乗った男は紅逆の前に座り、話出した。
「音無 紅逆、十六歳。東京第一高等学校に通う一年生。色素の薄い金髪で赤と灰色のオッドアイ。
その他詳細不明」
ズラズラと語られる自分の個人情報。
梗は小型のノートパソコンに目を向けながら嬉しそうに笑みを浮かべている。
「僕が調べてここまでしか情報が出ないなんて初めて。お前の情報、何も出てこないんだよねー不思議なことに」
梗は俺の目を見つめている。
「にしてもオッドアイ、珍しいね。髪色も色素薄いし。てか思ったより身長小っさいなー可愛いー」
俺が動けないことを良いことに髪を弄る梗。
しかも人の気にしている身長の話をしやがった。
「失礼だな!! ちょっ、髪触んなよ。てか、なんで俺の情報を持ってんだ?」
俺は目の前にいる白金を睨む。
「僕を睨むなんて良い度胸してんね」
「何様だよ!!」
「え? 俺様」
なんか睨む気すら失せてしまった。
濃い、キャラが濃いんだよ。
しかも俺は何故誘拐犯の仲間とこんな風に話しているんだ。
「お前の情報を知っていた理由は教えてあげるよ。僕がハッカーだから」
「ハッカー?」
そうもう一度尋ねれば、梗は笑顔のまま頷いた。
「依頼料高い仕事だったから出来る限り力尽くしたんだけど、お前の情報少なすぎ」
梗はパソコンを閉じて立ち上がる。
「僕の仕事は君の情報集めとお前が目覚めたか確認するまで。だから終わり。じゃーねー」
手を振りながら去ろうとする梗を俺は引き留める。
「ま、待て!! お前の依頼主は誰だよ!?」
「……ヒミツ。依頼主には多分すぐ会えるんじゃない? 凶暴な人だから噛み殺されないように気を付けな。
じゃ、今度こそおさらば」
薄い笑みを口元に浮かべたまま扉から出て行った。
鍵の掛かる音が耳に響く。
「あ、今逃げ出すチャンスだったよな? うっわー俺馬鹿すぎ」
それに梗に頼んで手足の拘束外してもらえば良かった。
外してくれそうにないけど。
改めて部屋を見回せば、たくさんの物が置かれている。
物置、なのだろうか。
「ホント何処だよー」
項垂れても何も変わらない。
「眠先輩は無事かなー」
俺がこういう状況にあるということは、一緒に寝ていた眠先輩の身にも何かしか問題が起きているかもしれない。
「別に会長とかなら心配しねぇんだけどなー」
これ、聞かれてたら頭多分ぶち抜かれるよな。
「これからどうしよ」
俺の小さな呟きが部屋に響いた。
*
「眠と紅逆がいない?」
「そう!! そうなんだよ!!」
会長の疲れた声と牡丹の慌てた声が生徒会室から聞こえる。
「二人とも帰宅を確認されてないんだよ」
牡丹は頭を抱えている。
「紅逆の制服に付けたGPSチップの反応が屋上に残ったまま……」
会長は生徒会室を後にし、屋上へ向かう。
そして地面に落ちたGPSチップと一枚の紙を拾い上げた。
「さっそく紅逆に手を出したか……。“黒犬”め」
悔しそうに握り締められた紙。
「牡丹、一縷……仕事に行くよ。恐らく紅逆と眠は一緒だ。黒犬を始末しに行く」
追いついた二人に指示を出し、もう一度紙に目を向ける。
“政府に忠実な子犬さん。君の大切な屍クンと眠り姫は借りてくよ”
「馬鹿にしやがって……。この屈辱は三倍返しだね」